『ソクラテスに聞いてみた』(藤田大雪著)、第2章を特別公開!

27歳、彼女ナシ、転職も考えて自己分析中のサラリーマンのサトルの前に、ある日、ホームレスのような姿をしたソクラテスが現れた――。

「汝自身を知れ」「無知の知」「善く生きろ」などの言葉でも知られ、「生き方について考えること」の重要性を最初に説いた古代ギリシアの哲学者ソクラテス。2400年前のアテナイで、ソクラテスは街の人をつかまえては鋭い質問を投げかけ、相手の本当の考えを引き出す、知の探究に勤しんでいました。その対話法は、自分でも気づかない「本当の考え」を炙り出す手法として知られており、現在では「ソクラテス式問答法」と呼ばれています。

そんなソクラテス式問答法を現代人が抱える「仕事、人間関係、お金、恋愛、結婚」などの悩みにぶつけたら、どういう結論になるのか。ある日突然現代に現れ、イカの燻製をこよなく愛するソクラテスと27歳の人生に退屈している会社員・サトルが繰り広げる「人生をよくするコミカル哲学ストーリー」。それが『ソクラテスに聞いてみた』です。

ここでは第2章「恋愛 モテる人は何がちがうのか?」を丸ごと公開。特別に試し読みができます。

恋は近くにありて、遠いもの

サトル「くそっ! あいつら、人のことを見下しやがって。ちょっと見た目がかわいいからって調子に乗るなっての!」

何の成果も得られず、くたびれ儲けに終わったどうしようもない合コンの帰り道、ぼくはめっぽういらだっていた。どうして合コンに来るのはあんな卑しい女しかいないんだ。やっぱり行かなきゃよかった! おや、あの白い布を身体に巻きつけた変なジイさんは……。

サトル「ソクラテスさんじゃないですか!」
ソクラテス「……おお! サトルくんか。ごきげんよう」

サトル「こんばんは。いま、なんか遠い目をしてましたけど、どうかしたんですか?」
ソクラテス「たいしたことじゃないよ。ただ家に帰れないだけさ」
サトル「いやいや、家に帰れなかったら大変でしょ。でも、まだ終電の時間じゃありませんよね? そう言えば、ソクラテスさんのご自宅はどちらなんですか?」
ソクラテス「アテナイのアロペケ区」

この人のソクラテスごっこは本格的だなぁ。

サトル「……あの、この前お会いしたときからずっとこの公園にいるわけじゃないですよね?」
ソクラテス「いや、ずっといるけど。ほら、あそこに青くてシャカシャカした布でできたテントがあるだろ。そこに親切な男が住んでいてね、水飲み場の場所とか、食糧の調達方法とか、テントの作り方とか、いろんなことを教えてくれたのさ。おかげで生活上の問題はすべて解決できた」

しっかりホームレスになってるし……。食糧の調達とか言って、どうせゴミあさりでもしているんだろう。この人としゃべってて、本当に大丈夫なのかな。あまりにも目立っていたから、つい話しかけちゃったけど。

サトル「ずっとここに住むおつもりですか?」
ソクラテス「まさか。このまま家に帰れなかったら大ごとだよ」
サトル「それを聞いて安心しました。ソクラテスさん、もしかしてあなた、遠くに来すぎて、帰り方がわからなくなっちゃったんじゃないですか?」
ソクラテス「うん。まあ、そんなところかな」

サトル「そういうことなら、そこの交番に行って、ソクラテスさんの家を探してもらったらどうでしょうか。よかったら、ぼくも一緒に行きますよ」
ソクラテス「ありがとう。でも、どうやらここは非ギリシャ人の地域みたいだし、帰るのは難しいと思う。ダイモニオンも『帰るな』って言っていることだし、しばらくはここにとどまることにするよ」

サトル「そうですか、大変ですね。ところで、『ダイモニオン』って誰なんですか?」
ソクラテス「ぼくの守護神みたいなものさ。よからぬことをしようとすると、いつも耳元で『よせ! やめろ!』って警告してくれるんだ」
サトル「……あぁ。お元気そうに見えるけど、もうけっこうなお歳ですもんね」