「一語でも短く、一字でも短く」

では、『文章力の基本の基本』第2章のテーマ「簡潔に書く」に移りましょう。

『文章力の基本の基本』
『文章力の基本の基本』

光文社から出した『文章力の基本100題』に書いたことを紹介します。「簡潔に書く」と何がよいのでしょうか。

「言葉を削ったら、その分伝わる情報量が減るのではありません。逆に余計な言葉を取り去ると、伝えたいメッセージが明確に浮かび上がり、より多くのことを的確に伝えることができます」

簡潔に書くと、当然ですが、読み手の時間を節約することもできるし、歯切れの良い文章は好感を与えるし、説得力も増します。簡潔というのはまさに値千金なんですね。

「一語でも短く、一字でも短く」。私はよく、そのように指導しますが、しばしば抵抗を受けます。「先生、この言葉を削ってしまうと、微妙なニュアンスが伝わらなくなるんですけど」という風に。

気持ちは分かりますが、そういう方は、読み手は一字一句漏らさず注意深く読んでくれて、書き手が何を言いたいのかを一生懸命考えてくれる、という風に期待し過ぎていると思うんです。実際にはみんな忙しいですから、関心のあるところ、読みやすいところしか読んでくれないんですね。微妙なニュアンスを伝えるつもりで意味の薄い言葉をたくさん盛り込むと、肝心の伝えたいことが伝わらない、ということがよく起きます。

まずはこの問題から。

「重複」にご用心!

【問題】
 彼は中学校からの友だちで、長い付き合いである、出会いは中学校2年の時であった。私が通っていた中学校に彼が転校してきて、同じクラスになった。

この問題は少し長いので時間がかかるかもしれませんが、考えてみてください。

【参加者】
 中学校2年生の時に転校してきた彼とは、長い付き合いの友達である。

ほとんど趣旨は合っているので正解としましょう。私がつくった改善案は次のような文章です。

 彼とは長い付き合いである。中学校2年生の時に彼が転校して来て、同じクラスになった。

ポイントは、原文では「中学校」が3回も出てくるところです。同じ言葉が二度三度出てきたらひとつにしてみると簡潔になる、という例ですね。ちょっと工夫したら42字、率にして40%も文字が減った。これで言いたいことは全部伝わりますよね。簡潔であればあるほど好感を持たれます。

簡潔な文章を書くために、まず注意してほしいのは、「重複にご用心」ということです。

【問題】
 策を弄そうとすると、たいていの場合うまくいかないことが多い。

【参加者】
 策を弄そうとすると、たいていの場合うまくいかない。

そうですね。もうひとつありませんか?

【参加者】
 策を弄そうとするとうまくいかないことが多い

これも正解です。
重複には二通りあります。先ほどの「中学校」のように同じ言葉を繰り返すのも重複ですが、同じ意味の言葉を繰り返すのも重複です。「たいていの場合」と「ことが多い」は同じ意味です。どちらかひとつでいいですね。

次の問題です。

【問題】
 私の交通手段は、ほとんど電車で済ますことができている。電車を利用すれば、都内で行けないところはほとんどないように思われる。

一見して回りくどい文章ですが、どう改善しますか?

【参加者】
 私の交通手段はほとんど電車です。電車で行けないところは都内でほとんどない。

惜しいですね。どなたかほかに改善案はありませんか? もう少し簡潔にできます。