日本最大の料理レシピサイト、クックパッド。もはや説明の必要もないほど浸透したウェブサービスです。その投稿レシピ数210万品、月間利用者数5,600万人(2015年6月時点)と聞くと、あらためてその人気に驚きます。

クックパッドの事業のひとつに「たべみる」があります。

「たべみる」は宝の山だった!

「たべみる」は、クックパッドの検索窓に毎日打ち込まれる膨大なキーワードの蓄積をビジネスに利用できる、データサービスです。食品売り場の商品展開や販売促進、メーカーの商品開発などに利用されています。

しかし、2014年1月のリニューアル版リリースまでは、成長する会員事業や広告事業にくらべて目立たない存在で、クックパッドはその有用性を認識しながらも、事業としての優先度は低かったようです。

中村耕史氏
中村耕史氏(クックパッド株式会社トレンド調査ラボ「たべみる」事業責任者)

「たべみる」のリニューアルを主導したのは2011年に市場調査会社から転職してきた中村耕史氏という、1983年生まれの若者でした。入社前から「たべみる」の存在を知っていて、大きな可能性を感じていた中村氏は、いくつかの障害をクリアし、2年9カ月かけてリニューアルを完成させたのでした。リニューアル後、「たべみる」は事業として急成長しています。

『「少し先の未来」を予測するクックパッドのデータ分析力』は、その中村氏が、クックパッドにおけるビッグデータの分析と活用事例を、「たべみる」リニューアルの経緯に触れながら書き下ろした本。ビッグデータの重要性は認識しているものの、有効に活用できていない企業は多いといいます。本書に豊富に登場するクックパッドの先進事例は、そんな現状を変えるための参考になるかもしれません。

ここでは、本書に登場する、検索ワード分析の実例を引きながら、その一端を紹介します。 


 2月の大雪の日、関東人は「すき焼き」を食べる?

クックパッドの利用者は、キーワードを組み合わせて検索します。たとえば「ナス×カレー」というように材料とメニューを組み合わせたり、「カレー×リメイク」のようにメニューと行動と組み合わせたりします。

検索用語の組み合わせを分析するのが「たべみる」の「組み合わせ分析」です。これは、注目したキーワードがどんな語句と一緒に検索されているかを分析してランキング表示するもので、生活者の隠れたニーズを発見できます。

「すき焼き」の組み合わせ分析事例を見てみましょう。

「すき焼き」が検索されるピークは年末年始。お祝い事なども含んだ、いわゆるハレの日のごちそう、というイメージです。しかし、

 データを分析すると、年末、つまり12月末の週以外においてもすき焼きはつねに一定の検索頻度があり、日常的に作られていることがわかる。さらに組み合わせ語を見ると「豚(肉)」と合わせて検索される頻度が「牛肉」との組み合わせを上回っていることや、「フライパン」との組み合わせも多いといったことがわかる。
(118ページ)

このことから、すき焼きはじつは日常的に食卓に上るメニューであり、それは牛肉ではなくむしろ「豚肉を使いフライパンで簡単に作れるすき焼き」だということが推測できるのです。

ちなみに2014年の2月、東北から関東、東海地方が大雪に見舞われた日があります。そのとき、「すき焼き」の検索数に顕著な上昇が見られたとか。これをさきの「すき焼き×豚肉×フライパン」と合わせて考えると、次のようなストーリーが浮かんできます。

 家庭の冷凍庫には特売の日に購入した豚バラなどの肉がストックされており、同様に豆腐も常備されている。大雪の日は多くの場合、買い物に行きづらいので、ストックされた材料を使って作れるものを検索する、同時に、台所を預かる身としては、余った食材で満足感のある食事を提供したいと考えた。
(120ページ)