そして2015年。このノーベル街道からまた新たな受賞者が生まれた。物理学賞の梶田隆章氏である。梶田氏は1997年から神岡に近い旧大沢野町に自宅を構え、生活と研究の拠点としている。

それにしても、これだけのノーベル賞受賞者を輩出するとは驚かずにはいられない。さすが、出世魚が運ばれた街道である。何かがあるに違いない。ノーベル賞を取りたい人、子どもに取らせたい人は、富山市などで開催される「ぶり・ノーベル街道ウォークツアー」に参加してみてはどうだろう。世界を変えるほどの、すごいアイディアが閃くかもしれない!?

塩の道

「千国(ちくに)街道」が通る長野県の小谷(おたり)村と白馬村、大町市では、毎年5月の初旬に「塩の道祭り」が開催される。昔の旅姿に扮した地元の人たちとともに、多くの観光客が北アルプスの山々を眺めながら歩くこの祭りは、その名のとおり、日本海沿岸部と内陸部を結び、重要な物資を運んだ「塩の道」の往時の様子を再現したものだ。

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「塩の道祭り」には毎年多くの人が参加する (写真提供:北アルプス三市村観光連絡会)

同じように「塩の道」と呼ばれる道路は全国にいくつかある。内陸に住む人たちにとって、塩は容易に手に入れることができない貴重なものだった。沿岸からは塩とともに海産物も運ばれた。また内陸からは、農産物や材木、鉱物などを届けた。

これほど重要だった「塩の道」の中でも、この千国街道が特に有名だ。江戸時代、松本藩は新潟の糸魚川の塩しか運ぶことを許可しなかったため、必ず通ることになる千国街道が栄えたといわれている。たくさんの観光客が訪れる「塩の道祭り」の盛り上がりは、先人の活気を現代に受け継いでいるのだろう。

生活のための重要な物資の輸送を支え、人の往来を促した道は、たとえその役割が変わっても、地域や沿道の人々に伝承され、祭りなどを通じて記憶に残り続けるものなのだ。
(本書第3章より)


 日本の道路(高速道路、一般国道、都道府県道、市町村道)の総延長は127万3,620kmにもなり、地球約32周分にあたる。しかも毎年約4,000kmも延びているそうだ。長さだけでなく、渋滞の解消や災害時の避難路としての機能向上など、質の面でもますます進化していくだろう。

道路は人々の生活を支え、文化の交流を促し、経済成長の動力となってきた。高速道路から観光地の散策道、町内の路地裏まで、歴史のない道はない。

散策には絶好の季節。観光地への通り道としてではなく、「道」そのものの歴史と文化を巡る旅に、本書を片手に出かけてみてはいかがだろう。