正確にわからなくても「推定」してみればいい

智香と木村のやりとりは続きます。

智香「先輩、たとえばいま表参道店の1日の購入者数は平均すると何名くらいですか?」

木村「だいたい10名くらい」
智香「ではその中で、先輩のおっしゃる“ファッション誌で有名モデルの可愛い姿を見て興味を抱き、そのブランドをチェックしてショップに足を運んで服を買う”お客様は何人くらいだと思いますか?」
木村「そんなことわかるわけないだろ」
智香「もちろん正解は誰も知りません。でも想像してみてください」
木村「まあ半分くらいじゃないかな」
智香「私は1.5人と推定します」
木村「へ? 1.5人?」

広報・PRの効果を知ることは、マーケティングにおいてとても重要です。一方で、その詳細を分析せずに、「これだけお金と時間をかけているのだから、きっとお客様に届いているはずだ!」と思い込んでいる担当者も多いはず。その思い込みのまま仕事をするのは、非常に危険です。
智香はさっと、「1.5人」という具体的な数字を出しました。いったいどのようにして、この数字を弾き出したのでしょうか。

智香「今朝、ある調査機関のデータを探してみたら20~30代女性の約7割はファッション誌をまったく購入していないそうです。読んでも立ち読みか美容院で流し読む程度だとか」
木村「……」
智香「しかも、定期的にファッション誌を読んで自分のファッションの参考にしている人はたった15%だそうです」
木村「……」
智香「あくまで仮にですが、そのデータが実態に近いとすると、単純に考えれば表参道店の10名のお客様のうちファッション誌を読んで来店している人はその15%、つまり1.5人です」

この計算には、難しい数学的な理論はいっさいありません。ただデータを調べて、それが実態に近いと仮定し、自分のビジネスに置き換えただけです。考え方さえ知っていれば、誰でもすぐに「推定」できます。「10人中5人が広告を見て来店している」という思い込みから、「もしかすると広告を見ているのは1.5人しかいないかもしれない」と気がつけば、いまの仕事のやり方を疑うきっかけになります。

正確な数字がわからないからといって仕事の成果の評価を避けていると、いつまでたってもよりよい仕事はできません。身近にある客観的な数字から成果を「推定」してみることが気づきを生み、仕事の質を高めてくれます。

あとは、やってみるかどうかだけ!

ここで紹介した2つの方法は、どの職場にもあるようなデータで誰もが簡単に実践できるものです。しかも、仕事の成果をグンと上げる可能性を秘めています。それなのにやっていない人が多いのは、「やり方」を知らないから。本書は、その他さまざまな「数字の使い方」を、木村&智香の奮闘を通じて、具体的に、楽しく教えてくれます。

あとは仕事でやってみるだけです。中学レベルの数学で、仕事の効率がよくなり、精度の高い戦略が立てられるのなら、やらない理由はありません。本書を読んで、明日からの仕事を変えてみませんか?