一生モノのスキルになる!
『文章を書く』ことの苦手を好きにかえる方法 <連載第89回>
伝える力【話す・書く】研究所を主宰し、「文章の書き方」に精通する山口拓朗さんに書き方のコツを教わります。今回は「推敲のポイント」について。
「わかりにくい文章」、書いていませんか?
ビジネスシーンで「わかりにくい文章」を書くことは、書き手と読み手の双方にとって大きなリスクです。「読みにくい」「何が言いたいのかわからない」と途中で読むのをやめられたり、誤解を招いて信頼を損ねたりする恐れもあります。
では、「わかりにくい文章」とは具体的にどのようなものでしょう? 本稿では、「わかりにくい文章」に共通する4つの原因とその改善策をお伝えします。
(1)冒頭で結論を示せていない
文章の冒頭で要点や結論が示されていないと、読み手はストレスを感じます。
たとえば、営業担当者が上司に「今週は〇〇商事様とやり取りがありまして、以前からの検討案件について先方から追加の質問がありました」とだけ報告した場合、何が起きたのかが伝わりません。一方で「〇〇商事様との案件、正式にご発注いただける見通しになりました」と冒頭で要点を示せば、読み手は内容をすばやく把握できます。
仕事で書く文章の出だしは、読む人に“全体像”が伝わるよう、できるだけ簡潔に一文で要点を示すことを意識しましょう。
(2)論理性が崩れている
情報の順番や話のつながりが不自然だと、読み手は混乱してしまいます。
たとえば、提案資料で「今期の売上は前年比92%。新商品の開発が必要です。それと、営業部では営業研修を実施しました」という書き方は、論理の飛躍が目立ち、筋が通っていません。「今期の売上は前年比92%で減少傾向にあります。とくに既存商品の鈍化が目立つため、新商品の開発が急務です」と整理するだけで、論理が整い、納得感が格段に高まります。
(3)説明不足・言葉足らず
「これ、前のやつでお願いします」「月末までに対応を」など、大事な情報が省略された文章は、前提や文脈を共有していない相手には伝わりません。
たとえば、報告書に「確認済み」とだけ書かれていても、「誰が(Who)」「何を(What)」「いつ(When)」「どこで(Where)」「なぜ(Why)」「どのように(How)」「どれくらい(How much)」といった情報が抜けていれば、読み手に不安や疑問を残します。
誤解や余計なやり取りを防ぐためには、「A社作成のプロジェクトZの企画案の件、先ほど弊社サーバーへのアップロードを確認しました」のように、必要な「5W2Hの情報」を省略せずに書く必要があります。
(4)冗長でまわりくどい
同じ内容をくり返す文章や、回りくどい表現は、読み手にストレスを与えかねません。
たとえば、「〇〇の件についてお伝えしますと、いくつかの懸念点が存在していると感じておりまして、引き続き、慎重さを持って取り組むことが重要だと考えております。というのも〜」と続く文章は、回り道が多く、要点が見えにくい状態です。「〇〇の件は関係各所との調整が必要なため、慎重に検討する必要があります」と簡潔に書くことで、読む人にすっきり伝わります。
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自分の文章が「わかりやすい」のか「わかりにくい」のかを、自分で正しく判断するのは難しいことです。だからこそ、ふだんから読み手の視点で読み返す習慣が不可欠です。さらに、第三者から添削やフィードバックを受ければ、自分の文章の「わかりにくい点」により気づきやすくなります。
少しの工夫と意識によって、文章は驚くほどわかりやすくなります。まずは、本稿で紹介した「わかりにくい文章」の特徴を避けることから始めてみましょう。
山口 拓朗(やまぐち たくろう)
伝える力【話す・書く】研究所所長。山口拓朗ライティングサロン主宰。出版社で編集者・記者を務めたのち、2002年に独立。26年間で3600件以上の取材・執筆歴を誇る。現在は執筆活動に加え、講演や研修を通じて、「1を聞いて10を知る理解力の育て方」「好意と信頼を獲得する伝え方の技術」「伝わる文章の書き方」などの実践的ノウハウを提供。著書に『読解力は最強の知性である 1%の本質を一瞬でつかむ技術』(SBクリエイティブ)、『「うまく言葉にできない」がなくなる 言語化大全』(ダイヤモンド社)、『マネするだけで「文章がうまい」と思われる言葉を1冊にまとめてみた。』(すばる舎)、『1%の本質を最速でつかむ「理解力」』『9割捨てて10倍伝わる「要約力」』『何を書けばいいかわからない人のための「うまく」「はやく」書ける文章術』(以上、日本実業出版社)、『伝わる文章が「速く」「思い通り」に書ける 87の法則』(明日香出版社)、『ファンが増える!文章術——「らしさ」を発信して人生を動かす』(廣済堂出版)ほか多数。