人名・地名 おもしろ雑学

日本で一番多い名字は佐藤で、2番目が鈴木といわれています。しかし、「本当?」と思っている人も多いのではないでしょうか。東京の周辺に住んでいる人は違和感がないでしょうが、関西の人だと、一二を争うのは山本と田中だろう、と思っています。

交通が便利になって、東京からだと、離島や山中を除いてほとんどの所に日帰りできるようになりました。でも、日本は狭いようで、まだ地域差は残っています。そんな日本を名字や地名からみつめ直してみたいと思っています。

著者プロフィール

森岡 浩(もりおか・ひろし)

姓氏研究家・野球史研究家。1961年高知市生まれ。土佐高校を経て早稲田大学政治経済学部卒。学生時代から独学で姓氏研究を始め、文献だけにとらわれない実証的な研究を続けている。一方、高校野球を中心とした野球史研究家としても著名で、知られざる地方球史の発掘・紹介につとめているほか、全国各地の有料施設で用いられる入場券の“半券”コレクターとしても活動している。

現在はNHK「日本人のおなまえっ!」解説レギュラーとして出演するほか、『名字の地図』『高校野球がまるごとわかる事典』(いずれも小社刊)、『名字の謎』(新潮社)、『日本名字家系大事典』(東京堂出版)など著書多数。

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輪中と堀田

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2025/05/20 10:21

木曽三川輪中ミュージアム

名古屋の西側には、木曽川、長良川、揖斐川という3つの大河、いわゆる木曽三川が流れている。そして、木曽三川といえば輪中で有名だ。

たびたび氾濫する木曽三川に悩まされたこの地の人達は、集落や農地を水害から守るために周囲に大きな堤防を築いた。そして、この堤防を「輪中堤」、その中に囲まれた地域を「輪中」と呼んだ。輪中では独特の水田がつくられており、それを見ることができるというので岐阜県海津市にある水郷パークと木曽三川輪中ミュージアムを訪れた。

輪中に広がる麦畑

名古屋駅からJRで桑名駅に行き、養老鉄道に乗り換えて石津駅で下車。ここは揖斐川の右岸で輪中の外側だ。こからバスで揖斐川を渡って輪中に向かうことができる。

輪中は水はけが悪く米作が不安定だったことから、江戸時代中期頃から新しい形の水田が広まった。水はけの悪い水田の一部を掘り下げ、掘った泥土を稲の植え付け面の上に盛り上げることで植え付け面を高くしたのだ。こうした水田は「掘り揚げ田」といい、略して堀田(ほりた)と呼ばれた。

一方、泥土を取り出すために掘り下げた部分は掘り潰れ地といい、水路として田舟で行き来した。現在では排水がよくなったことから堀田は見られないが、水郷パークではかつての堀田を再現している。

水郷パークの風車

水郷パークの堀田

こうした水田から生まれた名字が「堀田」である。現在でも「堀田」という名字は、愛知県、三重県、岐阜県の県境付近に激しく集中している。

おもしろいのは、水田の堀田は「ほりた」であるのに対し、名字では「ほった」と読むことが多いことだ。江戸時代の佐倉藩主の堀田家は愛知県稲沢市の出で、読みは「ほった」である。

現在、東海地方では95%ほどが「ほった」と読む一方、富山県から福井県にかけての地域では圧倒的に「ほりた」が多い。また、西日本では「ほった」と「ほりた」に読み方が分かれている。

 

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