人名・地名 おもしろ雑学

日本で一番多い名字は佐藤で、2番目が鈴木といわれています。しかし、「本当?」と思っている人も多いのではないでしょうか。東京の周辺に住んでいる人は違和感がないでしょうが、関西の人だと、一二を争うのは山本と田中だろう、と思っています。

交通が便利になって、東京からだと、離島や山中を除いてほとんどの所に日帰りできるようになりました。でも、日本は狭いようで、まだ地域差は残っています。そんな日本を名字や地名からみつめ直してみたいと思っています。

著者プロフィール

森岡 浩(もりおか・ひろし)

姓氏研究家・野球史研究家。1961年高知市生まれ。土佐高校を経て早稲田大学政治経済学部卒。学生時代から独学で姓氏研究を始め、文献だけにとらわれない実証的な研究を続けている。一方、高校野球を中心とした野球史研究家としても著名で、知られざる地方球史の発掘・紹介につとめているほか、全国各地の有料施設で用いられる入場券の“半券”コレクターとしても活動している。

現在はNHK「日本人のおなまえっ!」解説レギュラーとして出演するほか、『名字の地図』『高校野球がまるごとわかる事典』(いずれも小社刊)、『名字の謎』(新潮社)、『日本名字家系大事典』(東京堂出版)など著書多数。

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阿波十郎兵衛と傾城阿波の鳴門

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2025/09/23 10:35

人形浄瑠璃「傾城阿波の鳴門」

先日所用で徳島を訪れた際、徳島市内にある県立阿波十郎兵衛屋敷を訪れた。この屋敷の主の阿波十郎兵衛とは、江戸時代前期に徳島藩の庄屋をつとめた板東十郎兵衛で、他国米積み入れの川口裁判改役(監視役)を務めていた。

阿波十郎兵衛屋敷

当時、肥後と阿波では一俵の分量が違うことから、船頭は回漕してきた俵の差分を収入にすることができたが、十郎兵衛はそれを認めなかったためトラブルになったという。その後、十郎兵衛は罪に問われて処刑、妻お弓は病死し、娘お鶴は消息不明となった。

この話をもとにしてできたのが、人形浄瑠璃「傾城阿波の鳴門」である。その主人公である元徳島藩士の盗賊阿波十郎兵衛は、板東十郎兵衛をモデルとしている。

人形のかしら

この演目は8段目の「順礼歌の段」がよく上演され、なかでも「ととさんの名は十郎兵衛、かかさんはお弓と申します」のフレーズが有名。阿波十郎兵衛屋敷では毎日この段を上演しており、生で人形浄瑠璃を見ることができる。

ところでこの板東十郎兵衛、名字は「板(いた)」に「東」と書く。「ばんどう」という名字は圧倒的に「坂東」と書くことが多いが、徳島県では「坂東」が21位で、「板東」が31位とともに多い。

かつて、鳴門市から阿波市東部にかけての吉野川下流の北側は板野郡であった。「板東」とは「板野郡の東」という意味で、徳島県をルーツとする独特の名字である。

現在でも旧板野郡地域に集中しており、鳴門市出身の板東英二も名字は「板東」である。

 

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