『ムリなくできる親の介護』は、父、祖母、母と連続で介護を経験した著者の工藤広伸さんが、ムリせず、頑張り過ぎない、親も子も幸せになる介護について教えてくれる1冊。

親の介護に直面する前に「これだけはやっておいたほうがいいこと」や、著書に込めたメッセージについて、工藤さんにお話をうかがいました。

介護は1本の電話から、突然スタートした

――工藤さんの「介護」の始まりは、突然だったそうですね。その時の状況を教えてください。

今、私は46歳ですが、すでに3回の介護を経験しています。1回目が34歳のときで、私は東京で働いていました。岩手に住む当時65歳の父が、脳梗塞で倒れたという連絡が妹から入ったんです。事情があって家を飛び出して以降、ずっと一人暮らしをしていた父の面倒を見ることができるのは私しかおらず、介護離職をせざるを得ませんでした。

仕事を失ったことで、収入はもちろんのこと、将来のキャリアプランや自分の老後の貯金などを、同時に失うことになりました。

ただ、体調の異変を感じた父が自力ですぐに病院に行ったこともあり、1年もかからず状態が回復したため、もう1度東京に戻り再就職できました。しかし、そのわずか5年後に、今度は岩手にいる認知症の祖母が子宮頸がんで余命半年と宣告され、同時に母が認知症を発症し、40歳のときに再び介護離職をすることになりました。

1回目の介護スタートから、こんなに立て続けに続くとは思いませんでしたね……。祖母と父を看取ったあと、現在はフリーランスとして講演会や執筆活動を行ないながら、東京と岩手を年間約20往復しながら引き続き母を遠距離介護中です。

――大変でしたね……。突然の介護から、気づいたことはありますか?

突然の介護生活スタートと介護離職のなかで感じたのが、備えの大切さです。とくに「複業(仕事を複数持つ)」と「貯金」が必要だと気づきました。「会社員としての道しかない働き方の不安定さ」や「お金がどんどんなくなっていう恐怖」は、とても強烈でしたね。

そのため、父の容体が回復して会社員に戻った後、何か他の道はないだろうかと考えた末に、副業としてブログをはじめました。といっても、雑貨や投資、競馬など、下手な鉄砲も数打ちゃ当たるとばかりに興味のないジャンルのブログを20個ほど立ち上げた結果、全部失敗してしまいました。方針もなにもなかったので当たり前ですよね(苦笑)。

ただし、その経験が2回目の介護離職の際に、現在の活動の柱となる「介護ブログ」を立ち上げる元となっているんです。その介護ブログを中心に、講演会に呼んでいただいたり、本を出版させていただくなど、フリーランスとして活動する現在につながっています。

工藤広伸さん。自身の体験をもとにした介護に関する書籍を多数執筆

――介護中の、職場の反応はいかがでしたか?

1回目のときはすぐに会社を辞めてしまったのでよくわからないのですが、2回目の介護の際は、職場の方々に理解していただき、かなり融通をきかせてもらいました。介護がスタートしたときはまだ転職して9か月ほどで、部下も7人いたのですが、社歴が10年あり私の補佐をしてくれていた女性に「介護があるから申し訳ないけど」と、僕の仕事をほぼお願いして仕事を回してもらっていました。

そうした職場の理解もあり、3か月だけ介護と仕事の両立を試みてみましたが、東京で働き、週末は岩手で介護という生活は、やはり限界がありましたね。夜行バスで朝の6時に東京に帰ってきて、シャワーだけ浴びて仕事に行くという生活で、単純に体力的にきつかったです。

介護はそんなに大変じゃない?

――今、お聞きしているだけでも、介護って大変そうだなと思うのですが、工藤さんはどう思われますか? 世の中でも「介護は大変」というイメージが強いですよね。

「大変じゃない」とは言いません。ただみなさんがイメージされているより大変ではないと思います。テレビをつければ「認知症の人が行方不明、暴力をふるって」といったニュースがあふれていますよね。イメージが先行しているというか……、大変なところばかりが世の中に宣伝されているような気がします。

でも、実際はそんなことばかりではないんです。親のできることとできないことを理解して、目の前の介護をこなしている方、使える制度は使ったり、専門家に頼ることで、無理なく介護を行なっている方もたくさんいらっしゃいます。だから「全部が全部、大変じゃないですよ」というのは声を大にして言いたいです。

また、大変だから必ず施設に入れなきゃということもなくて、実は介護を行なっている正社員の8割ぐらいの人が介護保険サービスを使って、仕事と介護を両立させています。その介護の中身を見てみると、見守りや家事の手伝いといった生活のサポートが一番多く、私たちがイメージする「24時間つきっきり」ということはほとんどないんです。

私自身は、介護を体験することで介護保険サービスの使い方を知ることができましたし、なにより今という時間がとても貴重なものだと気づくことができました。以前は46歳なんておじさんだなと思っていたんですが、介護に関わるなかで60代70代の人と交流する機会が増え、まだまだ自分は若くて色々なことに挑戦できるんだなと、考え方が変わりましたね。

親の介護を通じて、介護を自分ごととして考える機会を持つことで、今という時間の無駄遣いをしなくなったんです。