商品の作り過ぎや供給不足は経営に大きな影響を与えます。サプライチェーンの中でそれを防ぐのが「需要予測」です。AI・IoTの普及でさらに重要になる需要予測のポイントを、大手化粧品メーカーで実務を担当し、『この1冊ですべてわかる 需要予測の基本』の著書もある山口雄大氏に聞きました。

SCMのカギを握る「需要予測」

 化粧品や日用品などの消費財メーカーの花形部署と言えば、宣伝やマーケティング、商品開発などでしょう。また、それらの商品を製造する工場部門も重要な機能として広く認識されています。

しかし、魅力的な商品を開発し、好感度を上げるための宣伝を考え、品質の高い商品を量産する体制を整えても、作る量を見誤ってしまったらすべてが台なしです。消費者が欲しいと思う量に対して商品が不足した場合、売上の機会損失が発生するどころか、最悪の場合「宣伝を見て買いに来たのに!」というクレームにもつながりかねません。

逆に、作り過ぎてしまった場合は在庫を管理するための場所や人、つまりコストがかかります。さらにそれが何ヶ月も続くようなら、せっかく作った商品を新たなコストをかけて処分することすらあり、利益を減らす要因になります。

つまり、メーカーにとって商品を“適切な量”を供給することは非常に重要であり、そのためには商品がどれくらい必要かを正確に予測する必要があるのです。これを「需要予測」といい、メーカーの大切な仕事のひとつです。

需要予測があってはじめて、商品をつくるのに必要な「材料」「人員」「設備」を効率よく考えることができます。また、商品を消費者に届ける流通段階では、確保すべき倉庫の大きさや配送するトラックの台数、人員数なども決定できるのです。

このような、商品の材料の調達から消費者へ届けるまでの流れを「サプライチェーン」といい、それを管理する考え方を「SCM(サプライチェーンマネジメント)」と呼びますが、これはメーカーの生命線と言えるでしょう。マーケティングや商品開発にくらべこれまではあまり目立ちませんでしたが、AI・IoTの普及によってより精緻なマネジメントが可能になることが期待されるため、SCMを担当する部署はメーカーにとってその重要性が増してきています。

足りないデータを補う「想像力」こそ重要

では、需要予測を行うためには何が必要なのでしょうか? それは、「データと想像力」です。

需要予測はできるだけ客観的なデータに基づいて行われます。使われるのは消費者の購買データや商品が属するカテゴリーの市場規模データであり、あるいはテレビや雑誌などへの広告投入規模、消費者調査の結果などの「マーケティング情報」です。これらをバイアス(認知的な偏り)なく、科学的に考慮して需要を予測します。

ただ、統計的な分析に十分な量のデータがあることは、現実のビジネスの世界では稀です。

なぜなら、新商品開発には短くない時間がかかる割に、消費財のマーケットは変化が早いため十分な量のデータが貯めにくいからです。また、特定の消費財の需要に影響する要素は先述したもの以外にもたくさんありますが、それぞれについて何十万というデータを揃えるのは至難の技です。しかし、現実のビジネスではそのような条件下で的確な需要を予測していかなければなりません。

そこで重要になるのが、「プロフェッショナルの想像力」、つまり「人の力」です。特定のビジネス領域における深い知識が、多くはないデータの背景を想像することを助けてくれます。想像力をうまく活用することで、活用に耐えうる精度の需要予測が可能になるのです。