人は何によって幸せになるのか──「幸福」についての長年の研究成果を一般向けに解説した『幸せがずっと続く12の行動習慣』(原題『THE HOW OF HAPPINESS』ソニア・リュボミアスキー著)。名著と評され世界中で読まれている同書の日本語版が、装いも新たに復刊されました。

「何度も読み返したい。ウェルビーイングの原点がこの本にある」石川善樹(予防医学研究者・医学博士)

「科学的根拠による『幸せになる方法』のアドバイスを手にしたいなら、それはここにある」マーティン・セリグマン(ポジティブ心理学創始者、ペンシルベニア大学心理学教授)

専門家からも絶賛される同書を解説した、日本語版監修者の渡辺誠さんによる「あとがき」を掲載します。

よりよく生きるための「ポジティブ心理学」

本書は、原題を『THE HOW OF HAPPINESS』といい、直訳すると「幸せになるための方法」となります。この本で書かれていることは、一般的な自己啓発の本とは異なります。自分が経験したり、考えたりした方法を書いた自己啓発の本と違い、「幸せがずっと続く方法」を研究し、実験し、証明し、科学的に追求した結果をもとに紹介している心理学の本なのです。

この「幸せになるための心理学」を「ポジティブ心理学」と呼びます。「ポジティブ心理学」の本のなかでも、これほど幸せを科学的に分析し、その方法まで詳しく紹介している本はほかに見当たりません。それゆえ2007年の刊行以来、中国語、韓国語、ポーランド語、デンマーク語などをはじめ23の言語に翻訳され、世界中で読まれているのです。

ここで「ポジティブ心理学」について、あらためて説明します。「ポジティブ心理学」とは、人がより生き生きと、よりよい生き方ができるように研究している科学的な学問です。

マーティン・セリグマンが米国心理学会の会長に就任したスピーチで、「心理学はもっと普通の人が幸福になることに利用できるのではないか」と提唱し、「ポジティブ心理学」は1998年に生まれました。従来の心理学は「みじめな状態からどうしたらゼロに戻れるか」を研究していました。心の病に焦点を当て、病気の予防や治療を研究していたのです。セリグマンは、ゼロから上に、つまり、ゼロからプラスに向かっていく方向に心理学を用いていくことを提唱したのです。

2009年の国際ポジティブ心理学会・第1回世界会議では、マーティン・セリグマンは「ポジティブ心理学」を次のように説明しています。

・強みにも弱みにも関心をもつ
・最高の人生をもたらすことにも、最悪の状態を修復することにも関心をもつ
・普通の人が満ち足りた人生をつくることにも、病気を治すことにも関わる
・ みじめさを減らすだけでなく、幸せやよい生活を増やすための介入方法を開発する

「ポジティブ心理学」では、従来の弱みや病気を無視しているわけではなく、ネガティブになりがちな私たちの日々の生活に、ポジティブな面をこれまで以上に増やし、バランスをとっていくことを提唱しているのがおわかりいただけるでしょうか。

意図的な行動でチームや組織も幸せになる

この本では、「ポジティブ心理学」の研究者であるソニア・リュボミアスキー博士たちが、幸せな人たちの行動を観察し、その行動をほかの人たちが実行したら幸せになれるかをさまざまな方法で実験した結果、効果があるとわかったことを紹介しています。この実験や統計で証明することを「科学的」といっています。

科学とは「再現性がある」ということです。科学的に証明された方法を実行すれば、それを再現でき、自分に合った幸せの道を歩むことができる、といえるでしょう。

私たちの会社、サクセスポイント株式会社では、2008年より継続して「ポジティブ心理学」を活用し、人々が生き生きと充実して働ける組織開発のためのメソッドを提供しています。

「ポジティブ心理学」では、幸せな人のほうが高い成果をあげられることが科学的に証明されており、幸せをつくり出す組織開発を私たちは「ポジティブ組織づくり」と呼んでいます。組織開発のメソッドによって、幸せになるための行動をメンバーが自ら考え、実行することで、心理的に安全で、気持ちよく働ける環境づくりをしています。そのような組織では、意見を堂々と話し合い、最適解をみんなで話し合って決めて、行動しているのです。

そこでは、『幸せがずっと続く12の行動習慣』が大いに役立っています。「ポジティブ組織づくり」は「人間関係を育てる」ことから始まり、職場のメンバーのみんなで話し合い、「感謝の気持ちを表す」ように行動を変えていきます。メンバーはお互いに素直に「感謝の気持ちを表す」ことにより、関係がよりよくなっていきます。

また、メンバーは「親切にすると幸せになる」ということを理解することで、お互いにより協力するようになります。困ったときには声をかけ、助け合うことにより、関係性がよくなるだけでなく、生産性も上がるのです。

さらに、「目標達成に全力を尽くす」ために、それぞれのチームの意志で職場をよりよくする目標を立て、実行します。その結果、メンバー自らが主体的に行動する組織に変わっていくのです。自分たちでつくり上げた、ありたい姿に向かって、自分たちに合った「行動習慣」を実践することにより、お互いの関係性も生産性もよくする基盤ができるのです。以上は『幸せがずっと続く12の行動習慣』を活用したほんの一部の事例です。

「誰でも幸せになりたい。そしてその幸せは自らつくるもの。40%の意図的な行動を増やせば誰もが幸せになれる」。そんな『幸せがずっと続く12の行動習慣』の基本的な考えをもとに、この本を手に取っていただいたみなさまが、ご自身の幸せ、また、チームや組織の幸せのためにお役立ちいただけると、監修者として、これ以上の喜びはありません。

監修者プロフィール

渡辺 誠 Max Watanabe(わたなべ まこと)
富士ゼロックス、富士ゼロックス総合教育研究所にて営業教育・人事教育プログラムの企画・開発。社内研修制度で米国サウスキャロライナ州立大学大学院へ留学。その後、テレロジック(現・IBM)を経て、2006年にサクセスポイント株式会社を設立し代表取締役に就任。2008年から継続してポジティブ心理学に関するさまざまな研究結果を活用した企業コンサルティングを実施。「組織行動学の知見」×「ポジティブ心理学の実証」×「変革の対話手法」の3つをベースに人材開発と組織開発に取り組み、多くのWell-beingな組織づくりに携わっている。著著に『ポジティブ・リーダーシップ やる気を引き出すAI(アプリシエイティブ・インクワイアリ―)』(秀和システム)、訳書に『フィンランド式ファシリテーション ~主体性を引き出す対話型リーダーシップ』(サクセスポイント)などがある。

著者プロフィール

ソニア・リュボミアスキー
米国カリフォルニア大学リバーサイド校の心理学教授。社会心理学とポジティブ心理学のコースで教鞭をとっている。ロシア生まれ、アメリカ育ち。ハーバード大学を最優等位で卒業し、スタンフォード大学で社会心理学の博士号を取得。米国国立精神衛生研究所から数年にわたって助成金を受けて、感謝・やさしさ・つながりの介入プログラムを通じて持続的に幸福感を高める可能性に関する研究を進め、多くの研究奨励賞や表彰を受ける。その主なものに、バーゼル大学名誉博士号、ディーナー賞、クリストファー・J・ピーターソン金賞、テンプルトン・ポジティブ心理学賞がある。