『最高の毎日を手に入れる人生の10か条』(ジョン・ゴードン著/久保陽子訳)は、アメリカで刊行後10年に渡って読み継がれ、多くの人々にポジティブなエネルギーを届けた名著の邦訳です。出版にあたり、「物語に引き込まれ、登場人物に共感しながら一気に読み終えた」という訳者の久保陽子さんに、この本の魅力や読みどころについて寄稿していただきました。

他人事じゃない「ネガティブ思考」

アメリカで刊行から10年経った今でも売れ続け、100万部突破しているベストセラー“The Energy Bus”。私が出版社の方から原書を受け取ったのは、昨年のことでした。

物語はある朝、車で出勤しようとした主人公ジョージがタイヤのパンクに気づくところから始まります。ジョージは、会社でマーケティングチームを率いるリーダー。二週間後に新商品発売に向けた重要なプレゼンを控えていますが、チームの足並みは乱れています。

長い年月、他人の顔色ばかりうかがい、指示に従う歯車として生きてきたジョージは、ネガティブ思考がしみつき、不満ばかりかかえて生きています。そんなジョージに上司も部下も、妻も愛想を尽かし、解雇と離婚、両方の危機に直面しています。

「ここ数年、ツイていないことばかりだ」

そう考えるジョージは、タイヤのパンクにため息をつきながら、仕方なくバスで会社に向かいます。そこで出会ったのが、一人の女性運転手、ジョイでした。ジョイは満面の笑みを浮かべ、初対面のジョージに積極的に話しかけてきます。そしてジョージの後ろ向きな姿勢をすぐに見抜き、ポジティブな人間に生まれ変わってもらおうと、「旅する人生のルール10か条」を教えていきます。

ジョージの独白は、ネガティブな言葉であふれています。

「まるで世界中が自分の足を引っ張っているような気分になる」

「最後に『楽しい』と感じた日がいつだったのか、もう思い出すこともできない」

読んでいて思わず苦笑してしまうほどネガティブなジョージと、それをズケズケと指摘し、圧倒的なポジティブエネルギーを放つジョイ。この対照的な二人のやりとりは、どこかコミカルで、私は一気に読み進めていきました。

そして次第に、「ジョージのネガティブな姿勢は他人事じゃないぞ」と思うようになりました。スーパーでレジに並んでいるとき、自分の並んだ列だけ進みが遅い気がするジョージ。よい知らせと悪い知らせを聞いたとき、悪い知らせのほうしか頭に残らないジョージ。

そのネガティブ思考は、自分も身に覚えがあるな、と思ったのです。そしていつの間にかジョージに自分を重ね合わせ、ともにバスの旅をしている気分になっていきました。

運転手とともに学ぶ、「旅する人生のルール」

ジョイは1つめのルール「バスは自分で運転する」を示し、こう言います。

「あなたのバスの運転手は、あなた自身。それを忘れないで」

「自分の人生に責任を持ってハンドルを握らないと、本当にたどり着きたい場所に向かうことはできないわ」

人生は、自分で目的地を定め、ハンドルを握るバスの旅のようなもの。最高の旅にするために、どうやって目的地を決め、乗客を招き入れ、燃料を補充していくのか――。

運転手ジョイは、最高のバスの旅、つまり最高の毎日を送るためのルールを、ひとつひとつ、ジョージに伝えていきます。ジョージがバスに乗るのは、勝負のプレゼンまでの2週間。しかしそのわずかな時間で、ジョージは多くのことを学び、生まれ変わっていきます。