中小企業向けの生存戦略として知られる「ランチェスター戦略」。「限られた領域における圧倒的なナンバー1の地位を確立する」というものだが、社会や市況の変化により、その領域そのものが縮小・消滅してしまうとなれば、ナンバー1企業と言えどもひとたまりもない。では、そうした企業が生き残るにはどうすればよいのか。

本記事では、書籍の包装機器メーカーとしてナンバー1となった株式会社ダイワハイテックス(以下、同社)を事例とし、縮小する書店市場を前にどのような対策をとり生き残りを図ったのかについて解説する。

※本記事は『ランチェスター戦略 〈圧倒的に勝つ〉経営』(福永雅文著)より一部を抜粋・編集したものです。

市場の縮小への対策

既存事業の深耕以外に同社が取り組んだ対策は4つです。

1つはコミック本の包装機の顧客である5500店もの書店に対して、包装機以外の製品を販売していくことです。製品開発戦略といいます。2つ目は既存製品を新たな地域や顧客層に販売していくことです。市場開拓戦略といいます。

次に新規事業です。多角化戦略といいます。筆者は多角化戦略を2種に区分しています。

3つ目が転用による隣地型の多角化戦略です。包装機の技術を転用した周辺製品の開発、書店に直接営業する組織能力を転用した周辺市場の開拓と、その延長線にある周辺製品を新市場に販売することや新製品を周辺市場に販売することです。

4つ目は包装機と書店の既存事業に関係しない飛び地型の多角化戦略です。同社は環境関連のプラント設備の製造事業に取り組みます。集塵装置、焼却炉などを産業廃棄物処理業者などへ販売する事業です。縁あって事業を引き継いで取り組みました。成長市場であり、それなりに成り立ってはいましたが、事業を拡大させていくためにはさらなる投資が必要でした。身の丈に合わない事業規模となることと、本業との相乗効果もないので、事業売却します。

(同書P.116より)

1の書店市場への製品開発戦略は、万引き防止用の防犯システム、販売用の透明ブックカバー、ラッピング機器、各種販促ツールを製品開発し、販売してきました。

ブックカバーは書店が顧客に販売する商品です。書店で本を買うとカバーをつけるサービスを無料で行なっていますが、同社のブックカバーは透明ビニール製です。キレイな書籍を購入した人のなかにはキレイな状況を維持し続けたいと思う人も少なからず存在します。カバーや背表紙は見たいので透明なカバーをつけたいとのニーズに対応したアイデア商品です。

2の市場開拓戦略では韓国の書店に包装機を販売しました。

3の技術転用で新製品を開発し、組織能力の転用で新市場を開拓したことについては、

  • 図書館市場へコーティング機器
  • コンビニ市場へ雑誌が開かないようにテープ留めする機器
  • 通販市場に発送システム

をそれぞれ販売する事業に取り組みます。それぞれの概要は以下の通りです。

図書館市場へコーティング機器

図書館の本はカバーが傷まないように透明フィルムでコーティングされることが多いです。手作業ですると熟練した技術が求められ、1冊7~8分かかります。それを同社が
開発した機器を使えば3~4分でできます。慣れれば誰でもできます。

コンビニ市場へ雑誌が開かないようにテープ留めする機器

雑誌の立ち読み防止や、雑誌の付録を落ちないようにするために、これまでは白いビニールの紐で縛ることやゴムバンドで固定していました。かなりの手間がかかっていました。それを一瞬でとめることができ、かつ剥がすときに表紙が傷まないテープ留めの機器を開発しました。

この雑誌のテープ留め機器でコンビニ市場を開拓します。書店向けに開発した防犯システムはコンビニにも販売します。テープ留め機器は書店にも販売。相乗効果が出ています。

通販市場に発送システム

通販企業向けの発送システムを発売しました。きっかけは市場開拓戦略で開拓した韓国の書店でした。同社は書店を経営し、店頭小売するのみならず、書籍を通信販売していました。その仕分け・包装・梱包・ラベリングの発送システムの機器の開発を受託したのです。

次に国内の大手家電小売店から通販の発送システムの開発を受託します。これら受託開発で蓄積したノウハウを活かして、2015年に発売したのが通販企業向けの発送システムです。

しかし、通販企業向けの発送システムは大手包装機メーカーがしのぎを削る激戦区です。いかにして競争に打ち勝っていったのか。(後編へ続く)


著者プロフィール

福永雅文(ふくなが・まさふみ)

ランチェスター戦略コンサルタント。戦国マーケティング株式会社代表取締役。1963年広島県呉市生まれ、86年関西大学社会学部卒。マーケティング関係の仕事を経て99年にコンサルタントとして独立。小が大に勝つ「弱者逆転」を使命とする。「特定市場(地域、顧客層、商品)でナンバー1になることが企業の永続的な繁栄のために最も有効である」との考えのもと、企業の戦略づくりの方法を指導する。営業部門・拠点ごとに市場占有率を把握し、シェアと売上・利益を向上させる目標・戦略・行動計画を策定してPDCAを回す仕組みを導入。集客・営業の「武器」づくりのノウハウを提供する。

2005年よりNPOランチェスター協会で講座の内容とテキストの責任者を務め、後進のインストラクターの養成を行なう。同会常務理事。HIS創業者の澤田秀雄氏が立ち上げた起業家や政治家を育成する澤田経営道場の運営母体で理事を務めるほか、さいたま市の外郭団体や南アルプス市商工会などで若手社長の育成機関で講師を務める。歴史に学ぶリーダーシップ(戦略的思考と人間的魅力)についても著述や研修を行なう。『小が大に勝つ逆転経営 社長のランチェスター戦略』(日本経営合理化協会)、『新版ランチェスター戦略「弱者逆転」の法則』『ランチェスター戦略「営業」大全』(以上、日本実業出版社)ほか著書多数。