投資のテクニカル分析では移動平均線やMACDをはじめとした多種多様な指標が存在し、よく知られているものの一つに「ストキャスティクス(ストキャス)」というものがあります。一般に「買われすぎ・売られすぎ」を判断して逆張りに使われることが多い「オシレーター系の指標」ですが、内心「使いものにならない」と思っている人も多いのではないでしょうか。

しかし、チャート分析の第一人者として知られる小次郎講師(本名:手塚宏二)氏は「ストキャスの『正しい使い方』を知ってる人は少なく、それ故に使えないといわれているが、短期トレードにおいてこれほど使える指標はない」と言います。

では、その真の使い方とはどういうものなのか。同氏の著書『「大循環ストキャス」短期トレード入門』から前編・後編にわけて見てみましょう。

※本記事は、同書の内容を一部抜粋・編集したものです。

ボリンジャー氏はストキャスティクスが大好き

数あるテクニカル指標のなかで、ストキャスティクスは日本においてはまったく人気がありません。なぜ人気がないかといえば、みなさんがストキャスティクスを見ながら売買しても、ほとんど勝てないからです。

しかしこれには理由があります。ストキャスティクスの使い方は関連する書籍にも書いてありますし、インターネットで検索すると、いろいろなところに書かれていますが、実はほとんどが間違っているのです。

私自身はいろいろなテクニカル指標を、それらがつくられた1980年代から使っています。当時はパソコンで簡単にローソク足チャートやテクニカル指標を見ることができませんでしたから、自分で計算して方眼紙に記入するという作業を行なっていました。その経験からすると、テクニカル指標の意味を理解し、本当に使いこなすためには、計算式を理解することが不可欠だと思います。

いまの投資家のみなさんはそれを省いているがゆえに、正しくない情報が世に広まって信じられてしまい、多くの誤解に基づく間違った運用がなされているように思います。ストキャスティクスはその最たるものです。

たとえば、ストキャスティクスについてはよく、80%以上は買われすぎなので売りサイン、20%以下は売られすぎなので買いサイン、といわれています。しかし、これは丸っきりウソです。チャートを見ながら、このサインどおりに売買シミュレーションしてみてください。ものの見事に外れ続けます。そんなテクニカル指標は誰も使いたくないのは当然です。

ところが実際には、ストキャスティクスはインジケーターとして非常に使えるツールなのです。

どれぐらい使えるのかといえば、ボリンジャーバンドを開発した米国の著名なテクニカルアナリストであり、世界テクニカルアナリスト協会の代表も務めているJ・ボリンジャー氏が、「ストキャスティクスはスイス軍の軍用ナイフのように使えるツールである」と言っているほどです。実はボリンジャー氏の講演では、その話の半分以上が、ボリンジャーバンドではなく、ストキャスティクスについての話なのです。

ちなみに余談をいえば、インターネットで「ボリンジャー」と検索すると、破産したという話が出てきますが、それも丸っきりウソです。私は彼とは昔からの知り合いで、本人が来日するたびに会って話をしていますが、そんな事実はまったくありません。

ストキャスティクスの本当のしくみ

さて、日本では誤解にまみれているストキャスティクスですが、どのように使うのが本当に正しいやり方なのでしょうか。

ストキャスティクスには%K(パーセント・ケー)、%D(パーセント・ディー)、S%D(スロー・パーセント・ディー)という3本の線があります(図表1-1)。

オシレーター系(相場の強弱を示すテクニカル分析の指標で、通常は逆張りに適するとされる)のテクニカル指標とされ、日本においては「ストキャスティクスは逆張り指標である」として、図表1-2のようにまったく間違った使われ方をしているということは先ほど触れたとおりです。

これがどうして間違っているのでしょうか。後編では、その答えを解き明かすとともに、正しい使い方を解説します。


著者プロフィール

小次郎講師(こじろうこうし)

本名・手塚宏二。1954年生まれ。早稲田大学政経学部中退。金融会社からIT会社へ転身し、チャートソフトの開発や投資家教育に取り組む。2015年に独立。タートルズのトレード手法をベースとした小次郎講師流の手法で、これまでに教えた2000人を超える門下生からは専業トレーダーも多数輩出。

ラジオNIKKEI「小次郎講師のトレードラジオ講座」にレギュラー出演するほか、「マーケット・トレンド」「夜トレ」「キラメキの発想」などでも活躍中。著書に『真・トレーダーズバイブル』(パンローリング社)、『稼げるチャート分析の授業』(総合法令出版)、『ZAiが作った商品先物取引入門』(ダイヤモンド社)などがある。