どこの商店街にもある老舗の町中華。行列ができるわけでもなく、グルメサイトのスコアが高いわけでもないのに、もう何十年もそこで営業し続けている。飲食店業界の激しい競争の中で、なぜ生き残っていけるのでしょうか。それは、町中華には町中華ならではの「強み」があるからです。公認会計士・税理士兼「ドラゴンラーメン」(八戸市)店主の石動龍氏が、「業態別・ラーメン屋の儲けのからくり」を解説します。

※本稿は『会計の基本と儲け方はラーメン屋が教えてくれる』の一部を再編集しています。

八戸市の「ラーメン屋会計士」が解説!

近くにあるラーメン屋さんをいくつか思い浮かべてください。

いつも混んでいるラーメン屋さんもあれば、いつも暇そうなラーメン屋さんもあります。この2店はどちらが儲かっているでしょう?

正解は、「わからない」です。意地悪な質問ですみません。でも、このような視点を持つことが経営には重要です。

想像してみてください。いつも暇そうなラーメン屋さんはどうしてつぶれないのでしょう? 確かに、客入りが悪く、ぜんぜん儲かっていないパターンもあると思います。ところが、中には一見すると儲かっていなさそうでも、実はしっかり経営できている店もあるはずです。店の種類別に、コストのバランスを考えてみましょう。

メガ盛り二郎系は回転率と店内ルールで勝負

まず、「二郎系」と呼ばれる、メガ盛りラーメン屋の場合です。一般的に、二郎系ラーメンのスープは、大量の豚骨、背脂、チャーシュー用の豚肉を煮込んで作ります。

濃い豚の旨味を出すために、長時間煮込んでスープを作る店が多いようです。使う材料の量が旨味に直結するため、豚骨も背脂も大量に使用します。店によって煮込み時間は異なりますが、8時間以上煮ることも珍しくありません。

麺もオリジナリティあふれています。二郎といえば、強力粉を使ったごわごわの平打ち麺がシンボルです。本家のラーメン二郎では、基本的に自家製麺を行っているそうです。直系でないインスパイアの類似店は、自家製麺を行っているところも、製麺所から仕入れているところもあり、さまざまです。

そして、なんといっても二郎系の特徴はそのボリュームです。小サイズでも一般的なラーメンの特盛以上に相当する量があり、大サイズでは2杯分以上の量になります。トッピングの野菜、背脂も好みに合わせて増量でき、チャーシューは厚さ5センチ以上の肉塊がドーンとのってきます。

価格は高くても1000円程度、1日分の食事をまかなえるほどの量なので、コストパフォーマンスはとても高い1杯です。若者を中心に、豚脂・ごわごわ麺・ニンニクが醸し出すハーモニーのとりこになる人が増え続け、各地で行列を作っています。

ボリュームのあるラーメンですから、1杯に使う材料は、ほかの店より多くなります。小サイズでも麺は300グラム前後になることが普通のようです。

製麺しているか、仕入れているかで、麺のコストは変わります。仕入の場合、300グラムだと安くても100円前後になるでしょう。また、チャーシューも高コストです。二郎系のチャーシューは厚切りが標準のため、1杯あたりに使用する肉は100グラム近くになることもあるようです。

肉は部位と仕入先によって価格は異なるものの、安くても80円程度はするでしょう。国産のブランド豚を使用していれば倍以上の値段になることもあります。

このように、二郎系のラーメンは原価率が高くなりがちで、40%前後になることも多いといわれています。もちろん、店によって条件はまったく異なりますので、一概にはいえないのですが、原価がかかるラーメンであることは間違いありません。

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そして、二郎系の大きな特徴は、店内ルールによる高回転の維持です。オーダーの際に「ヤサイマシニンニクアブラカラメ」など、呪文を唱えるようにトッピングを伝えることが求められ、何も知らない新規の人は混乱します。

店によっては「ニンニク入れますか?」という質問が「野菜や脂の量、ニンニクの有無を指定してください」を意味することもあり、「はい/いいえ」で答えてしまった人は冷ややかな視線を浴びることもあります。

行列が前提のため、一定のペースで次々ラーメンを作る店もあります。その場合、座っている客が次のラーメンを出すまでに食べ終わることが前提のため、ゆっくり食べる人がいた場合は、席が空かずに次のラーメンを出せません。これを「ロット乱し」と呼ぶそうで、一部の行列が途切れない店では、好ましくないこととされているそうです。

このように、二郎系は新規客のハードルが高く、リピーターが来客の大半を占めています。これはたいへんよくできたビジネスモデルで、回転率を高く保てるために、原価率が高くても利益が残るしくみになっています

素材と技術に自信あり! 高級店の儲け方

続いて、素材に徹底的にこだわった高級志向のラーメン屋で考えてみましょう。高級地鶏やブランド豚を使い、有名ガイドブックの星を獲得するような名店です。

こちらは、もともと和食やフレンチの料理人だった人が転身して、店主になることも珍しくありません。長年の経験で培った技術と食材の目利きを応用し、大衆店とは一線を画したラーメンを提供します。

それぞれ店によって作るラーメンはまったく違います。共通するのは、使っている素材の産地やブランドを前面に押し出し、高級感を感じさせる1杯になっていることです。トリュフや和牛を使ったラーメンもあります。品質が高いのは商品にとどまらず、内装や器も美しく統一感があり、隙のない店舗になっているパターンが多いです。

トータルで普通のラーメン屋と違うことを明らかにしている店が多いので、値段も高めに設定されています。追加トッピングをしなくても1杯1000円を超えることは珍しくなく、1500円の商品もあります。「1000円の壁」を打ち破る新しい時代のラーメンといえるでしょう。

こちらも、高級素材を使うため、原価率は高くなっていると考えられます。二郎系ではボリュームとコストパフォーマンスで行列を作っていますが、こちらは高級感と品質の高さを集客につなげています

価格は二郎系より高いため、原価率が同じであっても、1杯あたりの利幅は大きくなります。店によって異なるものの、二郎系よりは来客が少なくても利益を残しやすい設計になっていることが多いでしょう。

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まったり町中華が生き残る理由

最後に、どこにでもありそうな町中華について考えてみましょう。こういう店は人気ラーメン屋のような混雑はなく、行列ができることもほぼありません。これまでに検討した種類の店よりも明らかに来客が少なくても、つぶれていない店が身近にもあると思います。

町中華のラーメンは、鶏や煮干を使った懐かしい1杯が多いです。素材もごく普通に手に入るものばかりで、原価率は低く抑えられているはずです。

鶏ガラは安く、豚骨と比べて加工の手間もかかりません。煮込み時間も短く抑えられます。1杯あたりの限界利益は、場合によっては二郎系より多いかもしれません。たまにフラッとこのような町中華に立ち寄ってみると、常連のおじいさんがビールを飲みながらテレビを見ていたりします。

実は、これが町中華の強みであり、店を続けていける大きな理由です。混雑するラーメン屋に行った経験を思い出してください。サイドメニューは少なく、お酒を長時間飲む人もいなかったはずです。混雑が前提の店では、滞在時間を長くするメニューは提供できません。

一方、空いている町中華は、だらだら飲んでもらうことが店にとってメリットです。

逆に考えれば、餃子やチャーハン、ビールを置いていない町中華はないでしょう。

具体的な数字で考えてみます。二郎系は1杯1000円で原価率40%、高級志向店は1杯1500円で原価率40%、町中華は1杯700円で原価率30%に加えて、原価率20%のおつまみと酒を1人2800円分頼むと想定します。

この場合、1人あたりの限界利益(=売上-変動費)は、二郎系が600円、高級志向店は900円、町中華は2730円です。

この前提では、町中華の1人は、二郎系の4人分、高級志向店の3人分以上の価値があることになります。

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このように比較すると、行列店が必ず儲かるとは限らないことがよくわかります。

飲食店に限らず、商売は薄利多売を目指すのか、少ない機会に利幅の大きい商品を売るのか、設計はそれぞれ異なります。ラーメン屋の例を、自分のビジネスに生かせるように、考えてみましょう。


著者プロフィール

石動 龍

1979年生まれ。青森県八戸市在住。石動総合会計法務事務所代表。ドラゴンラーメン店主。公認会計士、税理士、司法書士、行政書士。読売新聞社記者などを経て、働きながら独学で司法書士試験、公認会計士試験に合格。2020年10月に地元でドラゴンラーメンを開業し、店主として自ら店にも立つ。ワイン専門店vin+共同オーナー、十和田子ども食堂ボランティアとしても活動している。趣味はブラジリアン柔術(黒帯)と煮干ラーメンの研究。
著書に『公認会計士試験 社会人が独学合格する方法』『司法書士試験 独学で働きながら合格する方法』(ともに中央経済社)がある。