中学までは数学が得意だったはずなのに、高校に入った途端についていけなくなった……そんな経験を持つ人は少なくありません。『そういうことだったのか!高校数学』の著者であり、Z会進学教室の数学講師も務める石原泉先生は、高校数学を理解するには「論理力」と「読解力」が必要だといいます。高校数学の苦手克服のコツをお聞きしました。

※本稿は、『そういうことだったのか!高校数学』(石原泉)の一部を抜粋し、再編集したものです。

高校数学は「考える」教科

聞き手K(以下、K):高校数学が得意な生徒ってどんな生徒でしょう?

石原先生(以下、石原):まず中学で数学が得意だと思ってるケースには「解けるから得意」だと思う生徒と、「考えるのが面白いから得意」だと思っている生徒がいるようです。

K:自分は「解けるから得意」だと思っていて、その結果、中学までは数学が好きだった気がします。でも、高校数学になって数学が嫌いになりました。

石原:高校数学は、解けるのはもちろんのこと「考えるのが面白い」という生徒でないと、なかなかついていけないかもしれないですね。

K:では、「考えるのが面白い」というのは、これまで石原先生がZ会や中学、高校、予備校で教えているなかで、どんな生徒だったりするんですか?

石原:こちらが提案していないようなちがうやり方を自ら考えはじめる。極端にいえば自分の世界に行ってしまうような生徒です。

K:たとえば、Aという答えがあったら、教科書に書いてある1つのアプローチでもいけるけど、その子は別のアプローチからいくというような感じですか?  ちょっと負け惜しみじゃないですけど、自分も「数学が好き」の要素もあるかなと思ったのが、けっこう納得いかないと進めないというか。数学が好きな子はそういうところがあったりしますか?

石原:ありますね。納得いかない生徒は「わからない」とか「そこはどうなってるの?」と積極的にたずねてきますので。

K:ただ、僕は納得いかないのを、納得いくまでやればよかったんですけど、納得いかないままギブアップして手を上げてしまったんですよね。だから、どんどんわからないことが溜まっていって、もっとわからなくなっちゃったんでしょうね。

石原:でも……それは本人のせいだけでもないんじゃないかなと思います。納得いかないなか、教えている先生が頭がよすぎて、そこに気づけず話していたら、たぶん噛み合わないので。

K:自分がそうだったのですが、最終的にもう「何がわからないかがわからない」状態でした。

計算力よりも大切な「論理力」

K:たしかに「考えるのが面白い」と思えるようになれば、苦手でも数学が楽しく思えそうです。そう考えると、高校数学に求められるのは、計算力よりも「推理する力」や「論理力」な気がします。

石原:そうともいえるかもしれないですね。Z会の添削基準は、矛盾がなければ〇です。添削者には何種類か解答例が提示されますが、そのどれでもない解答を作成してくる生徒もいます。そのときの判断基準は、記されていることに矛盾がなく解答まで到達できていたらどんな方法でもいい、というものです。

K:それって、「論理力」かもしれないですね。高校数学というのは、計算だけの世界とはまたちがう論理的な世界ですね。これって物事を説明するときにも、使いますよね。「計算力」だけでなく「論理力」も必要になるということでしょうか?

石原:「計算力」と「論理力」は両輪ですね。

K:数学を通して学ぶ「論理力」もじっくりやれば、どんどん楽しくなりそうな気はしてきました。たとえば、数学であった「必要条件」や「十分条件」というのも、仕事で、たとえばコンサルティングとかでも使うと思います。数学的な頭の使い方ができれば、筋道を立ててものごとを考えることができそうです。

石原:自分の考えていることを人に説明するときに、情熱だけで話しても伝わりません。論理的というのは、コミュニケーションをするうえでも必要だと思います。

K:感情も大事ですけど、論理的に矛盾がないというところもそうですね。「証明」の問題でも「こうして、こうなって」と考えるのは、推理と思えばちょっと楽しいかもしれないです。

石原:推理しながら、楽しむという視点は、学ぶうえでも大事です。ストレートにわからないところを、Aを聞かれているということはBを考えればよく、Bを考えるにはCを考えればいけるのではないかというように論理的に考える。そうすると、高校でも落ちこぼれずいけると思います。

K:中学数学と高校数学をつなぐ道をつくるという感じですか?

石原:そうともいえるかもしれないですね。

「読解力」で問題の本筋をつかむ

K:あらためて、数学は「問題文を理解する読解力も大事」なように感じてきました。それとも読解力がいくらあっても、「前提」を知らなければ解けないのか、どっちなんですかね?

石原:「前提」を知ったうえでの「読解力」ですね。「前提」というのは、高校数学の常識みたいなものです。たとえば、方程式を解くときにxを左辺に持ってくるとかもそうです。さらに正確にいえば、「前提」を知って、「数学独特な言い回し」(※)がわかったうえで「読解力」がいります

K:そういうことを知らなかったから、落ちこぼれたのかもしれません。

石原:教科書の言葉そのままだと、生徒によっては理解が難しいので、めちゃくちゃ意訳をして「こういう感じ」と伝えると、生徒も「うんうん、わかった」といってくれます。意訳は数学的に厳密性に欠ける部分はあるかもしれませんが、大意をつかんでくれたほうがいいと思って話しています。

K:では、数学が得意な子たちのクラスは、先生が説明しなくても自分でわかるんですか?

石原:成績が上位のクラスの生徒は、説明がなくてもわかるんじゃないかな、と私は思います。自分で問題を解きながら「前提」も見出せているからです。

K:そういう生徒は、新しい単元で先生が教えなくても「ここは、こういうことを聞かれるんだな」とつかめるんですか! それって「数学的センス」みたいなもの?

石原:「前提」が見出せる生徒は、教科書に書いてある定義の意味を理解して、それに対して誠実にやればいいということをつかみます。つまり、定義を用いて、立ち向かえばよいということを体得しているのです。だから、がんばろうと思えるのだと思います。しかし定義があやふやな生徒は、やり方を覚えて……という感じになっていて、理解はしていないけど、とりあえず答えを出せばいいという感じで取り組んでしまいます。

K:それって、暗にいっていることをつかむということですか? 暗黙の「前提」というのは、素人にやさしくないですよね。

石原:ある意味そうですね(苦笑)。

K:使う武器はみんな平等かもしれないけれど、一方では使い方をちゃんとわかっている人と、そうでない人がいるわけですね。たとえば剣道とかも、基本を習っている人と、とりあえず竹刀を振り回せばいいと考えてる人とでは全然ちがいますよね。

石原:たしかに数学が苦手で「前提」を知らない生徒は、どう使うのが有効なのかも知らずに、武器だけ渡されている状態に近いかもしれません。ですので、数学と向き合う前提の姿勢として、まずは「定義」や「用語」はしっかり覚えて、どんな問題でも本筋をおおまかに理解できるようにすることが大切です。

 

(※)「数学的な言い回し」
「展開せよ」「証明せよ」など、数学の問題文特有の表現や言い回しのこと。『そういうことだったのか!高校数学』第3章では、高校数学で出てくる言い回しについて一つひとつ解説していきます。

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石原泉(いしはら・いずみ)

公文国際学園数学講師。Z会進学教室数学講師。1964年北海道生まれ。岐阜県公立中学校教諭を経て、難関大に強いZ会の東大・京大理系コースの添削者となる。Z会での15年間にわたる添削者としての経験で培った、生徒の立場になって問題を「翻訳」する正答へのアプローチ、より具体的な例を用いてかみ砕いた解説に定評がある(Z会における表彰実績もあり)。また、大学受験のバイブル「赤本」の執筆者として5年間携わる。自分の子どもたちにも独自の理論を教えた結果、高校数学を楽に乗り切ることに成功し、長男は2009年京都大学工学部、次男は2013年東北大学工学部に進学。学校、予備校、Z会の添削等で指導した生徒はのべ30000人を超え、旧帝大をはじめ国立大、医歯薬系大学にも多数合格実績を持つ。