就活に成功するために不可欠な「正しい戦略」と「正しい努力」を解説した『図解 戦略就活メソッド』の著者、林晃佑さんは、京都大学在学中に「京大生向け就職支援サービス」で起業して以来、リクルートのグループ会社の代表などを歴任しながら、これまでに1万人以上の就活生を支援してきました。
林さんはその経験から、「これからの時代の就活に成功するためには『近未来分析』が欠かせない」と指摘しています。『図解 戦略就活メソッド』の一部を要約しながら、具体的に解説していきましょう。
近未来分析──オワコン化を防ぐために
就活生にとって「自己分析」や「企業分析」は聞き慣れた言葉ですが、「近未来分析」にはなじみがないと思います。これは林さんの造語ですから当然なのですが、同時に、これからの就活にとって必要不可欠なことでもあります。
ひとことで言うなら「将来の企業や仕事のあり方と働き方、それらを取り巻く社会環境を想定して自分のキャリアを考えること」ということになりますが、なぜそれがことさら強調されるのか。理由が2つあります。
- 自分が社会の変化のスピードについていけなくなることを防ぐため=自分のオワコン化を防ぐため
- 社会の変化のスピードについていけなくなる企業を見抜くため=将来の「オワコン企業」を見抜くため
現在のような変化の激しい時代に対応するためには、近未来の社会のありようを考えておく必要があり、自己分析と企業分析だけではその視点が抜け落ちてしまうと、林さんは指摘しているのです。
近未来、ビジネスマンを取り巻く環境はどのようになっていると想定できるのでしょうか。
「企業」と「個人」のパワーバランスの変化
いまの学生の親の世代の就活は「就社」でした。まだ終身雇用が前提で、一生勤めることができる企業に採用されることを目標としていたのです。主役は、どちらかというと企業の側でした。
しかし、いまは違います。将来的に自分がやりたい仕事に就くために、キャリアのプラスになるようなファーストステップを踏みたいという、文字通りの「就職」になってきています。主役が「企業」から「個人」に変わったとも言えます。
つまり、「企業」と「個人」のパワーバランスが変化し「個人」の力が強くなってきているのです。この傾向はこれから強まっていくでしょう。
近未来では相対的にさらに「個人」の力が強まることを踏まえ、就活生のみなさんは個として自立できるように準備してく必要があることを十分理解しておいてください。(43ページ)
「個人力」の時代
では、そんな時代の「個人」はどう生きていけばいいのでしょうか。林さんはそのヒントとして、元日本マイクロソフト業務執行役員の澤円(さわまどか)氏の著書『個人力 やりたいことにわがままになるニューノーマルの働き方』(プレジデント社)から以下のような主旨の言葉を引いています。
- 「『個人力』とは、『ありたい自分』のまま人生を楽しんで生きていく力だ」
- 「これからますます『個』として何ができ、何を選ぶのかが問われるようになる」
- 「『わたしはこうありたい』と自分自身を定義し、あたりまえを疑い、常に自分自身をアップデートさせながら、多様な価値観を持つ人々と協働していくことが求められる」
自立した「個人」が主体的に生き方や働き方を選び取っていく。その選択次第で未来は大きく変わっていく──そんな時代になると林さんは言います。
「未来の働き方」とは?
以上のような企業と個人の関係性の変化によって、働き方はどのように変わっていくのでしょうか。林さんは、厚生労働省の「働き方の未来2035」という報告書を参照しながら次のように指摘します。
- 個人が自分の意思で働く場所と時間を選べるようになる。そのため「労働時間」ではなく「成果」によって評価され、報酬が決められる。
- 誰かを働かせる、誰かに働かされるという関係がなくなり、自立した個人が自律的に多様なスタイルで働くことが求められるようになる。
- 企業は目的が明確なプロジェクトの集合体となり、プロジェクトごとに従事する人も変わる。したがって企業組織が人を抱え込む「正社員」のようなスタイルは変化していく。
「パラレルキャリア」や「副業解禁」といったワードが示すように、すでにこのような変化の兆候は現れています。企業は、人材を縛りつけておくことができなくなってきているとも言えるでしょう。
「近未来の企業の姿」を3つのキーワードから考える
多様な「個」が主役となる時代に、企業の姿はどう変わっていくのか。そしてどんな企業が変化に対応し生き残っていくのか。この見極めが就活生にとっても重要になってきます。キーワードを3つあげ、説明していきましょう。
デジタル・ディスラプション(デジタル技術による破壊的変革)
UberやNetfrixなど、最新のテクノロジーと斬新なビジネスモデルを駆使して既存の企業に取って代わろうとする新興企業(デジタル・ディスラプター)がたくさん出てきました。この影響を受けない産業・業界はほぼなく、近未来の企業の姿を考えるうえでこのトレンドは押さえておかなければなりません。
AIの社会実装の加速
今後AIが社会や産業、生活を変えていく流れはますます加速していくでしょう。AIの社会への実装がどんな分野でどのように進み、どんな企業がその中で活躍できるのか。就活生も自分事として考えておきたいところです。
デジタルトランスフォーメーション(DX)は不可避
「デジタル・ディスラプション」と「AIの社会実装」を受けて、現在の日本企業の最重要課題となっているのが「デジタルトランスフォーメーション(DX)」です。経済産業省はDXを以下のように定義しています。
企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること
(経済産業省「DX推進ガイドライン」より)
林さんは最後の「競争上の優位性を確立する」という部分を重要視しています。ここがなければ、単なる「デジタル化」だからです。
また、孫正義氏のかつての発言(デジタル・オア・ダイ──デジタル化か、死か)になぞらえ「DX・オア・ダイ──DXか、死か」とその重要性を表現しています。
志望する企業がDXをどう捉え、どう取り組んでいるのか。この視点もこれからの企業選びに不可欠と言えます。
『図解 戦略就活メソッド』から、近未来の「働き方」と「企業の姿」を見てきました。著者の林さんは以上のような近未来分析を踏まえて、就活生向けて次のようなメッセージを発しています。
過去から今の働き方だけを見て、また、過去から今の企業の姿だけを見て、安易に就職先を決定するのは絶対にやめてほしいと思います。できることなら、自分の頭で未来の働き方、未来の企業の姿を考える努力をして、それも踏まえた上で、主体的なキャリア選択をしてほしいと思います。(69ページ)
就活は、自分自身をよく知り、アップデートするいい機会です。また、世の中の大きな流れを把握する絶好の機会でもあります。
就活をきっかけに、「個の力が輝く時代」を楽しんで生きていく術が見つかるかもしれません。
著者プロフィール
林 晃佑(はやし こうすけ)
1982年大阪府生まれ。京都大学経済学部卒業。在学中に「京大生向け就活支援サービス」で起業。その後、株式会社リクルート(現株式会社リクルートホールディングス)に入社し、ITを活用した複数の新規事業開発に従事した後、リクルートのグループ会社の代表取締役社長を歴任。
本業の傍ら「1人1人のキャリアを最優先に考えた就活の方法論を、わかりやすく伝えたい」というモットーのもと、東大・京大生を中心に今までに1万人以上の大学生の就活支援を行っている。就活支援を受けた学生の進路は、外資系コンサルティングファーム、外資系投資銀行、外資系IT企業、外資系メーカー、日系大手企業、メガベンチャー企業、ベンチャー企業、スタートアップ企業、官公庁等多岐にわたっている。