2020年春、新型コロナウイルスの感染拡大により、社会は大きな転換期を迎えています。
そんななか、新著『なりたいようになりなさい』(日本実業出版社)を上梓した美容家の小林照子先生は、幼い頃に戦争や両親の離婚を経験し、決して恵まれたとはいえない環境で育ちました。それでも大きな「夢」を持ち続け、85歳のいまも現役のメイクアップアーティストとして活躍しています。
現在、自身が創設した美容に特化した高校などで後進の育成にも力をいれている小林先生。「非日常」とも呼べるwithコロナの時代でも、自分らしく生きていくコツを聞いてきました。
(聞き手/日本実業出版社)
85歳・現役美容家がいま伝えたい、「美容的な生き方」とは
――本書の「はじめに」に、「私には『美容的な生き方』を伝える使命がある」とあります。先生がお考えになる「美容的な生き方」について教えてください。
「美容」を辞書で調べると「顔やからだつき、肌などを美しく整えること」とありますが、私は、美容には、「ひとり一人の個性をプラスにとらえ、その人ならではの美しさを引き出し、表現する」という役割があると考えています。そのうえで私は、「人に対して思いやりを持つこと」をもっとも優先します。
――「人」というのは、「他人」という意味でしょうか?
最初から「他人のためだけ」を考えてなにかをしようとしても、これは叶いません。まずは、「自分のことをきちんと認める、大事にする」といった考え方がないと、本当の意味で思いやりを持つことはできません。自分が満たされてこそ初めて、他人のことを大事にできる。だから、まずは自分を大切にしましょう。
そして、自分のいいところを見つけて、自分らしく伸ばしていく。そうすることで輝くことができます。そのうえで、輝いている自分が思いやりを持ったときに、他人に大きく貢献できる。これがわたしの考える美容的な生き方です。
――「まずは自分を大切にする」といった考え方を持ち合わせている人は、意外に少ない気がします。
コロナ禍に加えて、最近、SNSでの誹謗中傷がきっかけで自殺に至ったとされる不幸な出来事がありました。私たちはいまこそ「自分をどう大切にするか」「他人に対してどのように思いやりを持つか」を、皆で考え直すべきだと思います。
コロナを体験した私たちがこれからどうやって生きていこうかと考えたときに、「自分をなくして生きる」というよりも、こんな時だからこそ「誰かと比べることをせず、自分の直感や信念を信じて生きる」ことはとても大切なのではないか、と思います。
おうち時間にも「見られている意識」を捨てない
――本書のなかに、「なりたい自分でいるためには、見られている意識を捨てないこと」とあります。外出自粛により、人に会う機会が少なくなったいま、「見られている意識」を持ち続ける秘訣はありますか?
いや応なしに人間は誰でも「プライベートな自分」を持っていますよね。この自粛期間は素の自分になる時間が多かった。「たったひとりの自分でいられる時間」を持つことはとっても大切です。
ただ、常にプライベートな自分ばかりでいると、1日中だらだらと底なし沼のような時間ばかりを過ごしてしまいますよね。そこで「見られている意識」を保ち続けるためには、「FOP」を使い分けることが大切です。「FOP」とは、【F】フォーマルな自分、【O】オフィシャルな自分、【P】プライベートな自分です。このなかで、プライベートな自分の時間ばかりが膨れ上がってしまうと、どうしても孤立した考え方やマイナスな思考に傾きがちになります。
――「プライベートな自分」が大きくなりすぎないように、ということですか?
そういうことです。たとえば、モデルさんが綺麗になっていく過程には「人の視線を多く浴びること」があると思うのです。街やランウェイを歩くときの「あの子って綺麗ね」という“他人の視線”なのか、テレビや雑誌に出ている自分を振り返る“自分の視線”なのか、これはどちらでもいいのだけど、大切なのは「自分に対して緊張感をもつこと」なんです。
「緊張感」とは意識です。脳と皮膚と心は繋がっています。そこで意識がシャキッとすると、頭のなかもすっきりと整理されて、自然と生活に緊張感を帯びます。
――でも、家にいるとどうしても緊張感が欠けてきてしまいます……。
たとえば、宅配便がくるとわかっている日には、配達の人に会うときに恥ずかしくないように髪の毛をとかしてみたり、頬紅をさしてみてください。不愛想に荷物を受け取って終わりにするのではなく、「おつかれさまです。ありがとう」と言えるように身なりを整えてみる。そういった少しの意識を重ねていくことで、生活に緊張感が生まれます。
わたしが以前出会った編集者の方にとても賢い人がいました。その方は、子育てをしながら仕事もこなして、自分のことはなりふり構わず生活していました。だけど、そんな生活が続くわけもありません。疲れきった彼女は、仕事を辞めて、1日中ずっと家にいるようになりました。
家にいる間は1日中だらだらと寝間着で過ごすことが多くなり、生活はどんどんメリハリのないものになっていったそうです。
ある時、このままではいけないと思った彼女は、「毎朝ストッキングを履くこと」を習慣にしました。
すると、「ストッキングと寝間着という組み合わせはおかしい」ということで、ストッキングに似合う洋服に着替えることになります。さらに、服をちゃんと着替えたことで気持ちがシャキッと入れ替わり、外に出ようかなという気分になり、明るい自分に戻れたそうです。わたしは彼女の方法はとても賢いと思いました。
そういう方法があるんですね。貴重なお話をどうもありがとうございました!
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今回は、withコロナ時代に「自分らしく生きるコツ」についてお聞きしました。次回は「おうち時間にできる美容法」についてお話をおうかがいします。お楽しみに!
■インタビュー風景の動画はコチラ☆彡
小林照子(こばやしてるこ)
1935年生まれ。美容研究家・メイクアップアーティスト。
化粧品会社コーセーにおいて35年以上にわたり美容について研究し、その人らしさを生かした「ナチュラルメイク」を創出。小林コーセー(現コーセー)初の女性取締役にも就任。コーセー取締役・総合美容研究所所長を退任後、56歳で会社を創業、美・ファイン研究所を設立する。その後も、59歳のときに、[フロムハンド]小林照子メイクアップアカデミー(現[フロムハンド]メイクアップアカデミー)を開校、その後も、青山ビューティ学院高等部をスタートさせるなど、若者の人材育成にも力を入れる。
85歳を迎えたいまもビジネスの第一線で活躍。著書多数。