会計は「つまらない」ものではなく「美しい」もの

「会計っちゅうのはこのように、一面だけではなく複数の面から見ることが特徴やな。1つの取引をつねに原因と結果の2つの面から見て、その両方を記録する。だから複式簿記っちゅうんや」
「なるほど! それは知らなかったです」
「この物事をつねに複数の面から見る複眼思考が、会計のエッセンスっちゅうか、会計の美しいところやな」

パチョーリはそう言いながら悦に浸っていた。

「会計が美しい。そんなこと思ったこともありませんでした」
「そうや、こんなに美しい体系はないぞ。せやのにほとんどの人間は、会計をつまらない無機質なものだと思うとる。なんてもったいない。ワシがここに来たのは、その会計の美しさや奥深さを伝えたいというのもあるんや」

そうだったのか。そんな使命感を持っていたとは。さすが近代会計の父と呼ばれるだけある。

「おまえ、ワシのこと見直したやろ。さすが近代会計の父と思うたやろ」
「は、はい」

自分で言わなければいいのに、でもそれもまたパチョーリのかわいいところか。

「このように、お金にコストがかかっているからこそ、その資本コスト以上にお金を増やさなあかん。その責任を自覚することが大切なんや」
「資本コスト以上にお金を増やす責任。それが会計リテラシーってことなんですね」
「一番のベースはそこやな。そこがわかってなければ、どれだけ簿記を学んでも、勘定科目を覚えても、仕訳ができるようになっても、仕事や人生に活かすことはできへん」

僕は一応大学で会計を学んだが、資本コスト以上にお金を増やす責任という考え方は初めて聞いたように思う。