会社も同じで「何によって現預金が入り、何に使ったか」がわからなければ、会社がうまく現預金を回しているかは把握できません。キャッシュフロー計算書は、貸借対照表の残高の情報からは把握できない、会社の「お金(現預金)を回す力」を明らかにできるところに存在意義があるのです。

損益計算書とキャッシュフロー計算書のつながり

次に、損益計算書とキャッシュフロー計算書とのつながりを確認します。損益計算書は会社の「稼ぐ力(利益)」を、キャッシュフロー計算書は会社の「お金(現預金)を回す力」を示しています。

両者の大きな違いは計算の対象です。損益計算書が計算の対象としているのは「目に見えない計算上の利益」であり、キャッシュフロー計算書が計算の対象としているのは「実際に手もとにあるお金(現預金)」です。

なぜ、「目に見えない計算上の利益」と「実際に手もとにある現預金」の2つを分けて別の表にする必要があるのでしょうか? これは、発生主義の考え方があるためです。

わかりやすくすべく、ここも家計を例に説明します。現金払いをほとんどせず、カード払いの多い家庭をイメージしてみてください。カードで生活費の支払いをしている場合、使ったときにはお金は出ていかず、後日銀行から引き落とされることになります。

カードの支払いで予想していた以上の金額が引き落とされ、その月のやりくりが大変になってしまった経験がある方も多いのではないでしょうか。予想以上に引き落とされて後になってあわてないためにも、(まだ引き落とされていないけれど)計算上「いくら入り、いくら使ったか(発生したか)」と「現預金をうまく回しているか」は同時に把握する必要があります。

これは会社でも考え方は同じです。「黒字倒産」といわれるものは黒字、つまり計算上の利益は出ているけれども手元の現預金がなくなることによって倒産してしまうという状態です。

家計と同じように、会社も計算上の「利益(稼ぐ力)」を示す損益計算書だけでなく、「お金(現預金)を回す力」を示すキャッシュフロー計算書を作成するのはこのためです。

損益計算書とキャッシュフロー計算書の一定期間の利益と現預金残高は必ずズレます。なぜなら、損益計算書は発生主義によって記録されますが、キャッシュフロー計算書は入出金があったときに記録されるからです。「利益=会社に残っている現預金」ではありません。

このことを理解していないとどんな問題があるでしょうか? たとえば、その月の売上が順調で利益も多く出ている会社があるとします。損益計算書上は、入金がなくとも利益に計上するので「儲かっている」という印象を持つかもしれません。

一方、この会社の得意先の売上代金の回収条件が売り上げた月の3か月後であったらどうでしょう? いくらその月の売上が多くても、代金の回収が3か月後であれば、たまたま大きな支出が3か月内にあると資金繰りが行き詰まってしまうでしょう。

(P.99より)

損益計算書だけ見て儲かっている(=お金がある)と早合点してしまう危険性はここにあります。損益計算書の利益とキャッシュフロー計算書の現預金のズレを理解していれば、事前に銀行から借り入れるなど対策をとることができるのです。


ここまで「損益計算書・貸借対照表・キャッシュフロー計算書」の3つの決算書のつながりを見てきました。

貸借対照表と損益計算書は、家計でいえば「財布にあるお金(利益)」と「銀行にあるお金(純資産)」が連動していることと、会社の活動である「お金の調達または蓄積・運用」の状況を表しています。そして、貸借対照表の現預金残高と損益計算書の利益からは読み取れない「お金(現預金)の回す力」は、キャッシュフロー計算書を見ればわかります。

(P.101より)

3種類の決算書はこのように互いに補い合って、会社の「蓄える力・稼ぐ力・お金(現預金)を回す力」を示し、ビジネスのお金のプロセス全体を表しているのです。