ところで、今日の韓国において、半島の南西部の全羅道という地域の人たちが差別されているということを皆さんご存知でしょうか。この全羅道の人々は、韓人の血をもっとも色濃く受け継いでいるといわれていますが、韓国の大統領はほとんど慶尚道の出身で、全羅道出身者は金大中だけです。経済界で出世している人たちも全羅道出身者じゃない。芸能人などもそうです。

この差別の原因は、先ほどいった高麗の王建の時代にあります。この時代以降満州人と韓人は混血していく一方、全羅道の韓人たちはほとんど混血しませんでした。

高麗が統一する前の戦乱の時代、全羅道には後百済(ごくだら)という王朝がありました。後百済は王建と激しく戦ったのちに滅ぼされ、この地の韓人たちは高麗の被支配民となり差別されるようになります。彼らは満州人と結婚もできませんでした。この差別が今日までずっと続いています。1980年の光州事件は、差別された全羅道の人々が起こした反乱でした。

このように見ていくと、朝鮮民族は決して単一民族ではないということがわかると思います。いまは確かに混血が進んで、同じ言葉をしゃべり、同じ文字、ハングルを使います。ですから、かなり同一化してはいます。しかし民族的に見てまったく同じだということはいえないでしょう。歴史的に見れば、北朝鮮の人は満州人の血が濃く、韓国の人は韓人の血が濃い。それぞれのDNAには違いがあると、いえると思います。

「民族」に罪はない

皆さんも今後、中国や韓国に行くことがあると思います。私も6月に韓国に取材に行きます。民族のことがわかれば、見えてくるものがたくさんあります。

『民族で読み解く世界史』は全国の書店で好評発売中です(写真は著者の宇山卓栄さん)

大阪にも中国の方、韓国の方がたくさんいらっしゃっています。彼らを見ると、私たちと似ているところもあれば、違うところもあります。それらがどこからきているのかというと、やはり歴史からきていると思うんですね。

何千年に渡る歴史から生まれてきたDNAや意識、民族の血というものは、そう簡単になくなるものではないと思うんです。

その民族独特の風習とか行動パターンとか雰囲気があって、それが民族の個性だと思います。それらをお互いに尊重し合うということが、このグローバル時代には重要ではないでしょうか。

もちろん、核ミサイルを飛ばすなどというのは個性とはいえませんから、こういう国家に対しては毅然と対応しなければなりませんが。

しかしそれでも、政府や為政者に責任があるのであって、民族に罪はありません。世界の民族のさまざまな特徴を互いに尊重しながら国際交流を続けていけば、私たちのなかにいろんな視点ができて、世界中の人たちと楽しく生活していけるのだろうと思います。

私のお話はこれで終わりです。本日はありがとうございました!


宇山卓栄(うやま たくえい)

1975年、大阪生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。大手予備校にて世界史の講師として人気を博す。現在は著作家として活動。テレビ、ラジオ、雑誌など各メディアで時事問題を歴史の視点から解説するわかりやすさには定評がある。『「三国志」からリーダーの生き方を学ぶ』(三笠書房〈知的生きかた文庫〉)、『世界一おもしろい世界史の授業』(KADOKAWA)、『日本の今の問題は、すでに{世界史}が解決している。』(学研プラス)、『世界史で学べ! 間違いだらけの民主主義』(かんき出版)、『世界史は99%、経済でつくられる』(扶桑社)など、著書多数。