相手のモノサシに合った数字に変換する

言葉は表現によって伝わり方が変化します。そして私たちは、そのときの相手や話す場所に合わせてそれらの言葉を使い分けています。ビジネスにおいては数字も言葉です。であるなら、数字もTPOに合わせて表現したほうが伝わりやすいと、深沢さんはいいます。

たとえば、プレゼンテーションの達人として知られている故スティーブ・ジョブズ氏は、プレゼンのなかでこのような言い換えを行なっています。

「今までに売れたiPhoneは400万台。400万台を200日で割ると、1日平均2万台売れたことになる。」

なぜ短いプレゼンのなかでわざわざ割り算をし、同じことを言い換えて伝えているのでしょうか。

それは、400万台という数字が、どれくらいすごい数字なのか、一般の消費者にはピンとこないからでしょう。つまりジョブズ氏は、この数字がプレゼンを聞く側が持っている「モノサシ」に合っていないと判断したのです。その代わり、同じことを「1日平均2万台」という相手のモノサシに合わせた数字に言い換えて、インパクトを与えようと考えたのではないでしょうか。

この、伝えたい相手のモノサシに合った数字に変換できるかどうかは、仕事の報告においては重要なポイントです。上司や先輩が「ああ、そういうことね」と反応してくれる、伝え方を意識するようにしましょう。以下の例を参考にしてください。

●「先月の営業利益1,800万円」の変換例

・モノサシが「前月より増えたか減ったか」の先輩に対して
→「先月の営業利益は1,800万円。前月の20%増です」

・モノサシが「人員効率」の課長に対して
→「先月の営業利益は1,800万円。1人あたり200万円です」

・モノサシが「時間効率」の経営者に対して
→「先月の営業利益は1,800万円。営業時間あたり10万円です」
(本書、35ページより)

 曖昧な言葉を「数字」に変換する

ビジネスシーンにおいて、曖昧な言葉をきちんと「数字」に変換し、相手に伝えることも重要です。たとえば、売上高、販売数、労働時間といったように、最初から数字で表現され、相手の納得につながる言葉もあります。しかし少し意識を向けてみると、そのように数字で表現されていない曖昧な言葉が多様されていることに気づくはずです。

たとえば、

「この件は、なるべく早く対処します」
「ちょっと値段を下げて、たくさん売っていきましょう」
「頑張ります!」

といった発言。とくに新入社員のみなさんが、いいがちな言葉です。しかし、きっと「“なるべく”早くとはいつまでなのか」「“ちょっと”とはいくらまでのことを指すのか」「具体的には“どう頑張る”のか」、上司からそんな指摘をされるはずです。

数字になっていない言葉を数字に変換することは決して難しくありません。相手が「具体的にどれくらい?」と指摘してくる前に、「具体的にどれくらい?」と自分自身に問い、ざっくりとした数字に置き換えてしまう。それだけだと深沢さんはいいます。

「この件は、いまから2時間以内に対処します」
「最大10%まで値下げし、1日あたり50個のペースで売っていきます」
「今月は先輩の営業同行を前月より10件増やし、そのうち2件は私がメインで商談を進め、1件は受注をもらうことを目標に頑張ります!」

最初の発言と比べてどちらがビジネスシーンの会話として優れているか、いうまでもないでしょう。ビジネスシーンでは、相手に「どれくらい?」と尋ねられたらアウトという意識をもって仕事をしていれば、上司などからネガティブな印象や評価をもたれるのを防ぐことができます。

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