「源泉徴収制度」の元となる制度がつくられたのは1899年のこと。そのときはまだ給与所得には定められておらず、戦争へ向かう1940年に給与所得に対する源泉徴収制度が採用されます。戦後もこの制度は生き残り、1947年に現在のような源泉徴収に年末調整を加えた仕組みが導入されました。

この制度が採用されている背景には、税務署と給与所得者双方の作業の効率化があります。

日本の給与所得者は約5600万人いますが、確定申告を一人ひとりに課すのは大変なこと。そして、約5600万人全員の申告を受け付けると税務署の事務処理だけでも膨大な量になります。

そこで、会社には負担をかけることになるものの、事務の煩雑さを解消するために、税金の徴収を「代行」させているのです。

「源泉徴収は違憲ではないか」が争われた裁判で最高裁が出した結論は……

最後に本書からからこぼれ話を一つ紹介しましょう。

実は「源泉徴収制度は憲法違反ではないか」という議論があります。

これは源泉徴収義務者、つまり会社側の立場に立った見方によるもの。なぜ個人が自分で納めるべき所得税を、会社が納税しなければいけないのか。そして義務を怠ると「不納付加算税」や「延滞税」といったペナルティが課されるのは納得がいかない、というわけです。

確かに、会社は徴税の代行をさせられているにもかかわらず、手数料ももらえず、ペナルティも存在します。「これは財産権を侵害し、法の下の平等にも反し、憲法違反ではないか」という主張が裁判で争われたこともあります。最高裁の判決が出たのは、1962年のことです。

裁判所の判断は「違憲ではない」というものでした。源泉徴収制度はとても合理的なシステムであり、「公共の福祉」による制約として許されるし、補償も不要であるという判断が下されたのです。

給与明細をもらっても、ほとんど見ないという人は多いでしょう。また、経理担当者や源泉徴収制度の仕組みを知っている人でも、なぜこうした制度になっているのかまでは知らないという人は少なくないはずです。

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