鳥越:それで2人で行って、いまでも覚えているのは、その時僕は足を骨折していて松葉杖をついてた。それでも取材前に腹が減ったので、大宮の駅前でラーメンを食いました。

山路:ちゃんぽんじゃないですか?

鳥越:ラーメンだよ。

山路:あのねえ、鳥越さんね、ちゃんぽんが大好きなの。一緒に取材に行ったときに長崎ちゃんぽんがあると、その日の取材がすべてうまくいく。

鳥越:いやそれはね、あの、桶川にいくまでの途中にリンガーハットがあるんだよ。そこによく寄ってたって話。

山路:鳥越さんはウナギとちゃんぽんと、あとトンカツね。これがあると取材中に非常に機嫌がいい。

鳥越:ありがとうございます、そのとおりです。いまもウナギ食ってきました、すいません(笑)。

で、それでお父さんが話を聞いてくれて、その時からだんだん、取材してもいいよ、というふうになっていったんです。それで僕らが番組をつくることができた。その時彼が、被害者の友達とか周囲の人なんかにたくさん取材をして、それで初めて、ちゃんと取材できる人だな、とわかりました。それまではよくわからなかった(笑)。

「あまのじゃく」×「直感力」がもたらしたスクープ

山路:でも大変でしたよやっぱり。何が大変かっていうと、世間をみんな敵にまわしたような取材なんですよ。つまり、被害者に関するいいかげんな報道が世間を覆ってるというか、とにかくひどい女の子だっていうイメージ一色なんですよ。

ここが報道の難しいところなんだけど、そういうムードに逆らえないところがあるんです、正直言って。いまこういうムードのなかで、そんな報道ができるのかみたいな部分がね。この事件の時は相当世間がね、連日ワイドショーもやってましたし新聞も書いてたし。「ザ・スクープ」のディレクターが誰も手を挙げなかったっていうのはそういうことなんですよ。これ取材して、どうやって報道するの? というね。

鳥越:それはね、私は、小さい時からへそ曲り、あまのじゃくで、人と同じことはしたくない、というのがあって、田中真紀子がもてはやされてブームになってた時に、「まてよ、田中真紀子、なんかおかしいんじゃないの?」って、批判的な番組をつくりました。その時も、世の中全部を敵ににまわしているような状態です。

そんな風に、ずっと一貫して、世間を敵にまわす番組をつくってきて、それはそれで自分の仕事として意味のあることだと思ってます。

で、こういう性格は昨日や今日つくられたわけじゃない。小さいときから私には嫌いなものが3つありまして、小学校の頃から。

1にジャイアンツ。まわりがみんな巨人ファンだったから。2に自民党。まわりがみんな自民党だから。3に東京。みんな東京に行きたがるから。まあ、いまになってみるとね、東京は自分が住んでますからいまさら嫌いと言えない。自民党は取材対象だから好き嫌いの対象じゃない。

ジャイアンツだけは嫌いですね。アンチ・ジャイアンツです。きのうはジャイアンツ勝ったかな、残念です。そういうもともとあまのじゃくな性格がずっとあって、警察、検察の裏金問題とか、そういうのばっかりやってました。

まあそれで、この本で一番書きたかったのは、人間というのは論理的にモノを考えるという頭を持っていますよね。同時にもう一つ、論理性とは全く関係のない、なんのつながりもない、突然のひらめきっていうのがあります。直感と呼んでいますけど、僕は自分の人生では、この直感を大事にしなきゃいけないと思ってきた。

じつはみなさんが思っている以上に、直感の力で世の中が成り立っていることが多いんですよ。だからこの直感というものにもっと光をあてて、努力してコツコツ勉強するんじゃなくて、勉強してなくてもある日突然ひらめく、このひらめきをもっと大事にしようということを本に書いたんですけど、このことが実証されたと思っているのが、みなさんもご記憶にあると思いますが、和歌山で起きた、毒物カレー事件です。

(後編へ続く)