石油を産出する湾岸地域の秩序維持を第一にするアメリカは、湾岸戦争、イラク戦争、アフガニスタン戦争と直接中東に軍事介入して失敗し、オバマ大統領の下で撤兵を余儀なくされた。

イラクでは先に述べたように秩序づくりがうまくいかずに分裂が広がり、シリアでは内戦が深刻化。民主化を進めようとすればするほど、混乱が拡がり打つ手がなくなってきている。不況にあえぐヨーロッパは国内のイスラーム移民の問題で手一杯。ロシアも中国も国内に自立を求めるイスラーム教徒を抱え、積極行動に出られない。

シリアの内戦の終焉と、イラクの国家秩序の確立が「イスラーム国」崩壊の条件になるが、「イスラーム国」にとっては逆に混乱が続くことが体制を固める条件になる。

中東の大国、トルコは国内に自立を求めるクルド人を多く抱えているために「イスラーム国」への対応は曖昧である。イランは「イスラーム国」とは宗派的立場が違い、またサウジアラビアも国内問題を抱えている。政権の基盤が弱い他のアラブ諸国も動けず、八方塞がりとなっている。

結局、空爆と「イスラーム国」が領域拡大を目指す地域に居住するクルド人の軍事力に頼るしかないというのが、現状である。

(同書P.262より)


以上、ISILの形成について概説しました。しかし、より深くイスラーム世界を理解するためには、「そもそもシーア派とスンナ派ってどう違うのか?」「中東地域の歴史的背景はどうなっているのか」など、背景として知っておくべき事実はまだまだあります。

『歴史図解 中東とイスラーム世界が一気にわかる本』では、イスラームの歴史的背景やクルド人問題、石油利権にまつわる背景などがあますところなく解説されています。ぜひ、お手に取ってみてください。