「インバスケット」をご存知でしょうか?
これは1950年代にアメリカ空軍の教育機関が開発したといわれるビジネスゲームのことで、人が持っている能力を、問題が起こっている現場で適切に発揮できるかどうかを測定するツールとして使われるものです。 
いまでは日本でも、企業の管理者トレーニングや昇進試験で活用されるなど、次第に認知度があがってきています。
今回は、株式会社インバスケット研究所の代表であり、数多くのベストセラーを著した鳥原隆志さんに、インバスケット関連ではご自身5作目の『インバスケット集中講義』について、そのねらいと特徴を語っていただきました。

「インバスケット」は、限られた時間内に、架空の立場となって多くの案件を処理するというビジネスゲームです。現在、多くの一流企業で管理者やリーダーの昇格試験などに活用されています。
 
私はインバスケットを専門に研究するとともに、関連教材の開発や、リーダー育成研修などの活動を行っています。これまでに出版した関連のシリーズはおかげさまで大変好評で、多くのビジネスパーソンに読んでいただいています。『インバスケット集中講義』は、私のインバスケット本としては5作目にあたります。

人気のインバスケット講義を臨場感たっぷりに再現

この本を書くきかっけになったのは、私の本を読んでインバスケットの良さを理解していただいた読者の方々からの、「ぜひ、実際に研修を受けてみたい」という多くの声でした。しかしインバスケット研修は、その性質上一度に大人数が参加できるものではなく、また開催場所も限られているので、研修に参加したくてもできない方が非常に多いのです。

「もっと多くの方に研修を受けていただきたいのに」と悩んでいたところ、担当編集者から、「鳥原さんのインバスケット研修をそのまま本にしてはどうでしょうか」と提案されました。

なるほど、そうすれば多くの方々が研修を体験できるし、また、手探りでインバスケットを取り入れて研修を行われている企業内講師の方々などにも活用してもらえるかも知れない。そう考えてこの提案を受け入れたのでした。

また、少し前から考えていたことなのですが、新しい本を書くにあたってぜひチャレンジしてみたい構成がありました。それは、「インバスケット問題を使わない本」にするということです。

いままで私が書いてきた関連本は、インバスケット問題を中心に、答えと解説を付けたものがほとんどでした。この構成も、実際に問題を楽しみながら体験できるので悪くはないのですが、本来インバスケットは、スキルを事前に習得したうえで問題に取り組み、その中でスキル、能力を十分に発揮できるかどうかを試すものなのです。

以前から私は、そうしたスキルを習得しないまま問題から入り、答えを求められる方が多いことに危機感を抱いていました。そのためこの本では、身に付けていただきたいスキル、能力をわかりやすく解説することに重点を置き、あえて問題を使わないことに決めたのです。

しかし、問題を掲載しないとただの解説書や自己啓発本のようになってしまうので、実際のインバスケット研修を丸ごと一日分再現することで、リアルで臨場感のある本にしようと考えました。

次のページ ┃ 「ワーク」や「チーム研修」で深まる理解