伝える力【話す・書く】研究所を主宰し、「文章の書き方」に精通する山口拓朗さんに書き方のコツを教わります。第98回は「ムダのない文章」について。
情報を「幹・枝・葉」でとらえる
ビジネス文章で求められるのは「簡潔さ」です。しかし、「簡潔に書くとはどういうことか」と問われると、うまく説明できない人も多いのではないでしょうか。なかには、簡潔さを「短く書くこと」だととらえている人もいます。
文章を短くすることは、ひとつの手段です。ただし、本質はそこではありません。重要なのは、「どう短くするか」です。簡潔に書くためには、情報の要不要を見極め、不要な要素を削ぎ落とす必要があります。その際に有効なのが、文章を「幹・枝・葉」でとらえる視点です。
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【幹】 結論、要点、主張、概要など、文章の中心となる要素です。読み手が最も知りたい情報であり、最優先で伝えるべき部分です。
【枝】 理由、根拠、背景、判断材料など、幹を支える要素です。幹だけでは不十分な場合に、説得力や納得感を補います。
【葉】 具体例、詳細データ、強調・装飾表現(形容詞や副詞)、補足情報、似た内容の繰り返し、余談などです。理解を助けたり印象を強めたりする役割はありますが、なくても大筋は伝わります。
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簡潔に書くとは、この「葉」を刈り込み、幹と枝をくっきりと浮かび上がらせることです。さらに簡潔さを高めたい場合は、枝も必要最小限に絞ります。
簡潔に書くことの奥義は「葉を刈り込む」
実際に例文を用いて見ていきましょう。
〈ダメな例文〉
A社向けの提案書につきましては、現在、全体的な方向性についてはある程度固まりつつある状況ではございますが、まだ最終確定には至っておらず、現在は関係各所とのさまざまな調整を一通り終えたうえで、さらに細かい部分についての確認作業などを引き続き進めているところでございます。なお、提出のタイミングにつきましては、現時点では来週の水曜日頃を予定しております。
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この文章は、情報量こそありますが、結論が見えにくく、読み手に負担をかけます。原因は、「葉」の情報が多すぎて、「幹」が埋もれていることにあります。では、どこが「葉」なのかを具体的に見てみましょう。
まず削るべきは、「につきましては」「状況ではございますが」「ところでございます」といった冗長表現です。次に、「現在」の重複や、「ある程度固まりつつある状況」と「まだ最終確定には至っておらず」のように、同じ内容の言い換え(重複)情報も整理します。
さらに、「さまざまな」「一通り」「さらに細かい部分」といったあいまいな修飾語も削減対象です。加えて、「確認作業など」「提出のタイミングにつきましては」「現時点では」といった回りくどい言い回しも、意味を保ったまま簡潔に言い換えることができます。
これらの「葉」を刈り込むと、文章は次のように整理されます。
〈改善文〉
A社向け提案書は、方向性が固まりつつあります。現在は関係各所との調整を終え、細部の確認を進めています。提出は来週水曜を予定しています。
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冗長な表現や重複した情報(葉)を削ることで、伝えるべき内容が明確になりました。読み手はストレスなく要点を把握できます。
「幹・枝・葉で分解する」を習慣化しよう
文章を簡潔にしたいなら、闇雲に削るのではなく、まずは文章を「幹・枝・葉」に分解する意識をもちましょう。そのうえで、「葉」にあたる部分を削っていきます。
「幹・枝・葉」が見えていないと、何を削るべきか判断できません。逆に、「幹・枝・葉」が見えていれば、残すべきものと削るべきものを迷わず選べます。
慣れないうちは、書いたあとから整えれば問題ありません。しかし、「幹・枝・葉」の構造が見えるようになってくると、最初からムダのない文章が書けるようになります。自分が書いた文章だけでなく、他人の文章についても「幹・枝・葉」でとらえ、構造を見抜く習慣を身につけましょう。
山口 拓朗(やまぐち たくろう)
伝える力【話す・書く】研究所所長。山口拓朗ライティングサロン主宰。出版社で編集者・記者を務めたのち、2002年に独立。26年間で3600件以上の取材・執筆歴を誇る。現在は執筆活動に加え、講演や研修を通じて、「1を聞いて10を知る理解力の育て方」「好意と信頼を獲得する伝え方の技術」「伝わる文章の書き方」などの実践的ノウハウを提供。著書に『正しい答えを導く質問力』(かんき出版)、『読解力は最強の知性である 1%の本質を一瞬でつかむ技術』(SBクリエイティブ)、『「うまく言葉にできない」がなくなる 言語化大全』(ダイヤモンド社)、『マネするだけで「文章がうまい」と思われる言葉を1冊にまとめてみた。』(すばる舎)、『1%の本質を最速でつかむ「理解力」』『9割捨てて10倍伝わる「要約力」』『何を書けばいいかわからない人のための「うまく」「はやく」書ける文章術』(以上、日本実業出版社)、『伝わる文章が「速く」「思い通り」に書ける 87の法則』(明日香出版社)ほか多数。