一生モノのスキルになる!
『文章を書く』ことの苦手を好きにかえる方法 <連載第87回>
伝える力【話す・書く】研究所を主宰し、「文章の書き方」に精通する山口拓朗さんに書き方のコツを教わります。今回は「効果的な表現」について。
読み手に響く文章はどこが違うのか?
「エモい文章」——この言葉を耳にしたことがある人もいるでしょう。「エモい」とはエモーション(emotion)を語源とするスラングで、感情を揺さぶり、言葉で表せないような、感情が動かされる状態を指します。
エモさのある文章は、読む人の感情を動かします。たとえば、「真夏の海。熱い砂浜に立っていた」という文章と、「真夏の海。素足で焼けた砂浜を踏みしめるたび、ジリジリと足裏を焦がしながら大地の熱が入り込んでくる」という文章。あなたの感情が動いたのは、おそらく後者でしょう。なぜなら、後者のほうが、読む人の五感を刺激し、夏の砂浜の熱さを追体験させる力を秘めているからです。
では、心を揺さぶる「エモい文章」は、どうしたら書けるのでしょう? 本稿では、エモい文章によく含まれている5つの要素を紹介します。
「エモい文章」に不可欠な5つの要素
(1)感覚的な表現を使う
五感(視覚・聴覚、味覚、嗅覚、触覚)を用いた表現は、読む人の心に響きやすく、また、脳でイメージが広がりやすくなります。
【例文(1)】
突如、静寂を切り裂き、彼の演奏が始まった。その瞬間、胸を鷲掴みされるような苦しさが押し寄せた。ピアノの音は、夜空に散る花火のように──静かに、けれど力強く──胸の奥深くへと染み入っていく。
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(2)具体的な光景や模様を描写する
細部までリアルに描写することで、読む人は、その場にいるかのような臨場感を味わえます。
【例文(2)】
傘を持たずに歩く帰り道。雨粒が頬を伝い、冷たく光った。遠くの街灯が、水たまりにぼんやりにじんで、 まるで夜ごとに泣く誰かの涙みたいだった。
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(3)対話や内省を組み込む
発した言葉や内なる声を表現することで、読む人が気持ちを引き込まれやすくなります。
【例文(3)】
「……じゃあね」 彼女は、少しだけ震える声で笑った。僕は、何も言えなかった。ただ、遠ざかる背中を、どうすることもできずに見つめた。(うそだろ……? 本当に、これで終わりなのか?)
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(4)比喩を使う
比喩を使うことで、読む人に情景や感情を、よりダイレクトに届けることができます。
【例文(4)】
心の中にぽっかりと空いた空洞。それはまるで冬の空に漂う月のように、どこか冷たく、寂しげな光を放っていた。
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(5)リズムを意識する
文章にリズムを出すことによって、読む人がその状態や様子をリアルに感じやすくなります。
【例文(5)】
走った、走った、全力で走った。胸が苦しくても、足が痛くても、止まるわけにはいかなかった。
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これらの5つの要素を意識し、日頃から文章を書き続けることで、読む人の心を揺さぶる「エモい文章」を書けるようになっていきます。あなたの中にあるエモさを解放し、文章表現力を高めていきましょう。
山口 拓朗(やまぐち たくろう)
伝える力【話す・書く】研究所所長。山口拓朗ライティングサロン主宰。出版社で編集者・記者を務めたのち、2002年に独立。26年間で3600件以上の取材・執筆歴を誇る。現在は執筆活動に加え、講演や研修を通じて、「1を聞いて10を知る理解力の育て方」「好意と信頼を獲得する伝え方の技術」「伝わる文章の書き方」などの実践的ノウハウを提供。著書に『読解力は最強の知性である 1%の本質を一瞬でつかむ技術』(SBクリエイティブ)、『「うまく言葉にできない」がなくなる 言語化大全』(ダイヤモンド社)、『マネするだけで「文章がうまい」と思われる言葉を1冊にまとめてみた。』(すばる舎)、『1%の本質を最速でつかむ「理解力」』『9割捨てて10倍伝わる「要約力」』『何を書けばいいかわからない人のための「うまく」「はやく」書ける文章術』(以上、日本実業出版社)、『伝わる文章が「速く」「思い通り」に書ける 87の法則』(明日香出版社)、『ファンが増える!文章術——「らしさ」を発信して人生を動かす』(廣済堂出版)ほか多数。