人名・地名 おもしろ雑学

日本で一番多い名字は佐藤で、2番目が鈴木といわれています。しかし、「本当?」と思っている人も多いのではないでしょうか。東京の周辺に住んでいる人は違和感がないでしょうが、関西の人だと、一二を争うのは山本と田中だろう、と思っています。

交通が便利になって、東京からだと、離島や山中を除いてほとんどの所に日帰りできるようになりました。でも、日本は狭いようで、まだ地域差は残っています。そんな日本を名字や地名からみつめ直してみたいと思っています。

著者プロフィール

森岡 浩(もりおか・ひろし)

姓氏研究家・野球史研究家。1961年高知市生まれ。土佐高校を経て早稲田大学政治経済学部卒。学生時代から独学で姓氏研究を始め、文献だけにとらわれない実証的な研究を続けている。一方、高校野球を中心とした野球史研究家としても著名で、知られざる地方球史の発掘・紹介につとめているほか、全国各地の有料施設で用いられる入場券の“半券”コレクターとしても活動している。

現在はNHK「日本人のおなまえっ!」解説レギュラーとして出演するほか、『名字の地図』『高校野球がまるごとわかる事典』(いずれも小社刊)、『名字の謎』(新潮社)、『日本名字家系大事典』(東京堂出版)など著書多数。

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芭蕉と尿前の関

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2023/09/26 10:47

岩出山からさらに陸羽東線を西に向かって6駅乗ると、こけしで有名な鳴子温泉駅に着く。鳴子温泉駅で降りて西に2キロ程歩いたところに尿前(しとまえ)の関がある。尿前の関は松尾芭蕉の「おくのほそ道」にも登場する。有名な場面なので、高校の古文の授業で読んだという人も多いだろう。

 

尿前の関にある芭蕉像
尿前の関の周辺

「おくの細道」には、「なるごの湯より尿前の関にかゝりて、出羽の国に越んとす。此路旅人稀なる所なれば、関守にあやしめられて、漸として関をこす。」とある。要するに旅を続ける芭蕉と曽良は怪しまれたのだ。

仙台藩の関所は厳しく、取り調べを受けてなんとか嫌疑は晴れたものの、「大山をのぼつて日既暮ければ、封人の家を見かけて舎を求む。三日風雨あれて、よしなき山中に逗留す。」という状態に陥った。

封人の家というのは新庄藩で国境警備を任された有路家である。関越えに時間をとられた芭蕉は、この封人の家で2泊することになった。ここで読んだ有名な句が

蚤虱 馬の尿(ばり)する 枕もと

である。この地では厩も住居の中にあった。

ところで、「尿前」とは不思議な地名だ。その由来については義経伝説が登場する。義経一行が兄頼朝の追手を逃れて奥州平泉に逃れる途中、生まれたばかりの幼子亀若丸が初めて尿をしたことから、「尿前」と呼ばれるようになったという。

もちろん、これは後付けだろう。「しとまえ」という地名に後から「尿前」とあて、その漢字に因んで伝説が生まれたと思われる。では「しとまえ」とは何かというと、アイヌ語に由来するという説が有力。

このあと封人の家にも行きたかったが、尿前の関からは10キロ近くあるとわかり断念。この日は鳴子温泉で泊まった。

鳴子温泉でも有名な、元祖うなぎ湯の宿・ゆさや旅館
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