このようなベクトルの使い道は天気図や先に述べた車両設計だけではなく、スマートフォンや半導体関連の技術開発などにおいて必須の基礎知識だ。数学の苦手な人は「数学なんて社会で何の役に立つんだよ」などとよく言うが、そうした考え方が間違いであることを示す証拠と言ってもいいだろう。

社会を変える研究・開発に必要な「ベクトル解析」

しかし、目に見えない力を可視化しただけでは、産業に役立てているとはいえない。そこから先の「それがどういう作用を及ぼすのか」まで解析することが必要になり、その手法を「ベクトル解析」という。先に挙げた「高速車両と空気抵抗」の計算に欠かせない流体力学も、ベクトル解析を応用することで成り立っている。

ではベクトル解析とは具体的にどういう解析なのだろうか。ベクトル解析の入門書『道具としてのベクトル解析』を参照すると「ベクトルに微分積分学をコラボレーションさせたもの」とある。端的に説明するのは極めて難しいのだが、かいつまんで説明してみよう。先ほども出てきた天気図をもう一度見てほしい。

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(『道具としてのベクトル解析』涌井貞美著 p.8より引用)

風の向きと強さを示している矢印がたくさんあるが、これは数学用語で「ベクトル場」と呼ばれる(天気図は平面で表現されているが、実際は高度によって風の強さも変わるので、それを考慮すると「空間のベクトル場」になる)。

その「ベクトル場」に存在する力の流れ(ベクトル)を数式化し、解析を行うのが「ベクトル解析」である。車両開発でいえば車体周辺の空気や風、船舶ならそれに加えて波や水がベクトル場となる。

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燃費をよくするには、空気が前から上へスムーズに抜けていくように、車のフロントを設計する必要がある(『道具としてのベクトル解析』涌井貞美著 p.12より引用)

また、先に挙げたスマートフォンや半導体デバイスの開発であれば、電磁気学や電気工学の分野なので電場や磁場がベクトル場となり、解析の対象となる。


このように、力学・電磁気学問わず、ベクトル解析は現代の技術革新を支える基礎として位置づけられている。今後の発展が期待されるビッグデータやIoT、人工知能などといった最先端技術などでも、恐らく同じことがいえるだろう。そういう意味では、いま学んでおくべき研究アプローチといえるのではないだろうか。