6月28日にJR東海が発表した新幹線車両「N700S」。2020年度から東海道新幹線へ投入予定のこの車両は、従来のN700系に比べて先頭車両が非常にシャープになっているのが特徴だが、そのデザインコンセプトについて同社は「空気抵抗の低減が目的」と述べている。

上から見たN700Sのフロント部。左右両端のエッジは、走行風を整流するために設けられた(画像提供:JR東海)
上から見たN700Sのフロント部。左右両端のエッジは、走行風を整流するために設けられている(画像提供:JR東海)

新幹線や特急列車といった高速走行を行なう車両にとって、空気抵抗はスピードの妨げになるだけではなく、トンネルを抜けた瞬間に「ドン!」という強い衝撃を伴う「トンネル微気圧波」(通称:トンネルドン)を発する原因にもなる。近隣住民の生活環境を悪化させないためにも、空気抵抗の低減は必須なのだ。

これを解決するには、空気が高速で走行する車両にぶつかったときの挙動を解析しなければならない。その際「ベクトル解析」とよばれる手法が用いられており、新幹線のみならず飛行機や船舶開発においても必須の手法となっている。では、高校数学で習うベクトルの復習も兼ねて、簡単にみてみよう。

日常生活の中に溢れ返っている「ベクトル」

高校数学では「ベクトルとは“大きさと向き(方向)を持った量”を示し、矢印を使って表す」と習うが、実生活においては、矢印を「特定の方向へ向いた力」という言葉に言い換えることもできる。その最も分かりやすい例が「天気図」だ。

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(『道具としてのベクトル解析』涌井貞美著 p.8より引用)

天気図では、それぞれの地点における風向が矢印で示され、風速が色によって分かるようになっている。たとえば、北海道最北端の稚内近辺では、北方向に1~5メートル程度の風速の風が吹いていることが分かる。風速はそのまま風の「力」を示しているので、天気図の矢印は風速という「目に見えない力」をベクトルとして可視化したものといえる。