かつて、日本製の自動車や家電、半導体などは世界中でシェアの大半を占め「日本の技術は世界最高レベル」と考えれられていた。しかし、今では(自動車産業は健闘しているものの、)国際的なシェアを大きく落とすなど、見る影もなくなっている。その原因はさまざまあるが、

  • 経営側が“技術”を軽視し、結果としての“数字”にしか興味を示さなくなった
  • 過去の成功体験にしがみついたり、既存製品の高機能化だけを追求するような硬直的な姿勢が、組織としての成長を阻害した
  • 基礎研究を軽視する風潮を蔓延させるなど、「まだ世にない、新しい技術」の創出・研究に対する投資を怠るようになった

など「経営と技術の関わり方」を問題視する声が多い。

では、次代を担うエンジニアは「技術と経営の関係性」をどう考えるべきなのか。『エンジニアの成長戦略』(匠習作 著)から、「これからのエンジニアが学んでおきたいMOT(技術経営)のすすめ」の一部を見てみよう。

※本記事は、『エンジニアの成長戦略』より一部を抜粋し、編集したものです。

技術には賞味期限があることを知る

前節で述べた「魔の川」「死の谷」「ダーウィンの海」という3つの障害を乗り越えるために、技術を中心とした経営戦略を立てる。それがMOTの役割だ。

※編集部注:用語解説(『エンジニアの成長戦略』P.157-158より)

魔の川

基礎研究そのものが研究開発にたどり着かず、川に流されてしまうといったイメージを伝える言葉。

死の谷

研究開発と製品開発の間に横たわる深い谷のイメージ。研究開発から生まれた新技術が製品化されず、世に出ることなく死蔵されることを示す。

ダーウィンの海

「死の谷」を乗り越え、新製品として世のなかに出しても、外敵がうようよ泳いでいる生存競争の激しい海を泳いでいかなければならないことを示している。

21世紀の今日、先進国では性能や品質がよいだけの製品は売れなくなっている。面白い、使って楽しい、快適、これらが適度に満足されないと売れないのだ。

第1章で、スイスの時計業界が腕時計に対するこだわりから抜けられず、日本のクオーツ時計に敗れたことを説明した。しかし、それから50年、時計業界で苦い思いをしているのは、日本企業のほうである。立場は見事に逆転したのだ。

日本の時計メーカーは、時計は時間を知るための機械と考え、そこにこだわった。時間を計るのだから誤差を少なく、省エネで薄く軽量なものがいいと考え、そこを突き進んだ。国産の少しよい時計を見て欲しい。直径でわずか4~5センチ、厚さ1センチ以下のなかに、ソーラーシステムがあり、電波を受信して誤差を修正する機能が入っている。しかも、水のなかに入れても壊れることがないというサブ機能を持った時計でありながら、その価格は数万円である。

ずいぶん前だが、ある国内時計メーカーの工場を見学させて頂いたことがある。工場内は、生産ラインの随所にアイディアがあり、工夫の跡が見られた。精度を維持するために、部品を加工する機械も特別に設置され、設置された場所で最終調整と検査を行なう(今でも行なわれているから、詳しくは書けない)。