人名・地名 おもしろ雑学

日本で一番多い名字は佐藤で、2番目が鈴木といわれています。しかし、「本当?」と思っている人も多いのではないでしょうか。東京の周辺に住んでいる人は違和感がないでしょうが、関西の人だと、一二を争うのは山本と田中だろう、と思っています。

交通が便利になって、東京からだと、離島や山中を除いてほとんどの所に日帰りできるようになりました。でも、日本は狭いようで、まだ地域差は残っています。そんな日本を名字や地名からみつめ直してみたいと思っています。

著者プロフィール

森岡 浩(もりおか・ひろし)

姓氏研究家・野球史研究家。1961年高知市生まれ。土佐高校を経て早稲田大学政治経済学部卒。学生時代から独学で姓氏研究を始め、文献だけにとらわれない実証的な研究を続けている。一方、高校野球を中心とした野球史研究家としても著名で、知られざる地方球史の発掘・紹介につとめているほか、全国各地の有料施設で用いられる入場券の“半券”コレクターとしても活動している。

現在はNHK「日本人のおなまえっ!」解説レギュラーとして出演するほか、『名字の地図』『高校野球がまるごとわかる事典』(いずれも小社刊)、『名字の謎』(新潮社)、『日本名字家系大事典』(東京堂出版)など著書多数。

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「戌」のつく名字

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2006/01/05 10:13

あけましておめでとうございます。年末に転居したため、段ボール箱とともに新年を迎えてしまいました。本年も、箱の中から資料をあさりながら、話題の地名や人名を探っていきたいと思います。

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 さて、今年2006年は戌年。正確にいうと「丙戌(ひのえいぬ)」にあたる。そこで、「いぬ」のつく名字を探してみよう。
 「いぬ」は干支では「戌」と書く。この字は干支以外では見たことがなく、名字でも「戌亥」くらいしかみあたらない。
 「戌亥」は「いぬい」と読み、「戌」(西)と「亥」(北)の中間にあたる方角、すなわち北西を指す。通常は「乾」と書くことが多い。「戌亥」姓は関西独特の名字で、しかもその大部分は奈良県の中部に集中している。そもそも紀伊半島は方角に由来する名字が多く、「辰巳」や「巽」(ともに、たつみ=南東)は、奈良県ではごく普通の名字。大阪と奈良の境目あたりには、「艮」(うしとら=北東)という名字もある。
 では、「戌」にこだわらずないで探すと、実は一番多いのは「乾」。しかし、これだと「いぬ」という漢字が入っていない。「犬」の入った名字としては、「犬飼」が一番多い。
 犬は一番最初に家畜化された動物で、当初は狩猟用として、のちには穀物蔵の番犬として重用された。古代、大和朝廷には犬を飼うことを仕事として仕える一族があり、彼らは「いぬかいべ」と呼ばれた。漢字で書くと、「犬飼部」あるいは「犬養部」となる。「いぬかい」は、ここから生まれた名字で、五・一五事件で暗殺された戦前の大政治家・犬養毅はこの末裔。「いぬかい」姓は、「犬飼」と書く方が圧倒的に多い。地域的には名古屋市付近に集中しており、名古屋市の港区だけで集計すると、ベストテンに入りそうな名字である。
 「犬飼」に次いで多いのは「犬塚」で、この名字も愛知県に集中しているが、どちらかというと三河地方に多い名字。この2つ以外では、「犬伏」「犬童」「犬丸」「犬山」の4つが、比較的多い。このうち、「犬童」は熊本県南部をルーツとして南九州に分布するもので、読み方は「いぬどう」「いんどう」「けんどう」の3つがある。本来は「いんどう」だが、現在では「いぬどう」の方が多そうだ。
 「犬」以外の漢字を使う名字としては、福島の「狗飼」、和歌山の「狗巻」など、「狗」という漢字を使うこともある。
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