「高い声を出したい」
「自分の音域を広げたい」
「歳をとっても最盛期の声を出し続けたい」
ボイストレーニングの動機は人によって様々ですが、「人を魅了する声でうまく歌いたい、より良い声で話したい」という欲求はプロの歌い手に限らず誰しも持っているものではないでしょうか。
『「3つの音」だけで最高の声になるボイストレーニング ゴルジャメソード入門』は、多くの人のそんな欲求をかなえてきたカリスマボイストレーナー・武田梵声氏が、自身の指導法の核となる「ゴルジャメソード」を公開した書籍です。
詳しいトレーニング方法は本書を参照いただくとして、ここではその考え方の一端を紹介します。
「シ、レ、ミ」を鍛えればうまくなる
声には「地声」と「裏声」があります。じつは、この2つをスムーズに切り替えることがなかなかむずかしく、これがうまく歌えない原因の1つなのだそうです。ボイストレーニングの主なニーズもそこにあります。
歌がうまく歌えない原因の1つは、地声と裏声の切り替えがうまくいかないことだと気づかれている方も多いと思います。地声(胸声、チェストボイス)と裏声(頭声、ヘッドボイス)がうまく切り替えられれば、あるいは融合(ミックス、ブレンド)ができれば3~5オクターブ以上の声域で声を出せる人がほとんどです。
(中略)そうした事実が広く知られるようになって、地声と裏声をミックスするというミックスボイスが流行したのです。つまり、地声と裏声の変わり目をうまく切り替えたい、あるいはミックス、融合したいというニーズがボイトレ学習者やカラオケ愛好家の間で非常に高まったのです。(「はじめに」より)
なぜ切り替えがうまくいかないのでしょうか。
声は声帯の振動によって発せられ、それを司る喉の筋肉運動はとても複雑なのですが、根幹には次の2つの運動があります。
- 声帯を引き伸ばす運動=高い声が出る
- 声帯を閉じる運動=大きく強い声が出る
基本的にあらゆる声はこの2つの筋肉の運動から生まれ、これらのバランスが保たれていれば声はうまく出るのですが、「閉じる運動」が強く働きすぎたり(高い声が出ない)、逆に弱すぎたり(声量が減る)するとバランスが崩れて声が出しにくくなります。これが、地声と裏声の切り替えがうまくいかない原因です。
そしてこのバランスの崩れは、地声と裏声の「裂け目」である、ある音程を発するときに起こりやすいそうです。
その「裂け目の音」が「シ、レ、ミ」です。武田梵声氏によれば、この3音は「声のコア」であり、正しく発声できればほとんどすべての問題が解決するという、とても重要な音なのです。
裏声を強くするのがポイント
裏声と地声は同等な力を持ったときに連結するという基本的な法則があります。ところがシ、レ、ミの裏声は、大抵の人は極めて弱いため、訓練を積まないと地声と裏声のつなぎ目に裂け目が生まれ、声が裏返ってしまいます。(23ページ)
したがってゴルジャメソードでは、シ、レ、ミの裏声の強化に取り組みます。あえて簡単にいうなら、そのトレーニングの過程で声帯を動かす喉の筋肉が鍛えられ、地声と裏声の裂け目を埋める理想的な声帯と喉の状態になるというわけです。
なお、本書で三大ボイストレーナーとして紹介されているフレデリック・フースラー、コーネリウス・リード、ハーバード・チェザリーらの方法も、「裏声を鍛える」ことを重視しているそうです。ゴルジャメソードは、彼らの難解なボイトレ理論からいわば「コア」を取り出し、あらためて光を当てたものでもあります。
ゴルジャメソードを訓練してシ、レ、ミの3つの音を正しく発声できれば、高い声、声域、声量、ビブラート、コブシ、シャウト、滑舌、音色変化、豊かで自在な話し声といったあらゆる声のテクニックが可能になります。(32ページ)
さて、「カリスマボイストレーナー」と紹介した武田梵声氏ですが、その活動は広範囲にわたり、民俗学、演劇論、インド哲学などを修めつつ、古今、全世界のあらゆる芸能ジャンルに精通しています。
本書でも言及される分析の対象は古楽(アーリーミュージック)、クラシックからアフリカ起源の黒人音楽、ジャズ、ロック、ワールドミュージック、民謡や邦楽といったジャンル、またアーティストも、一般的になじみのあるところではジェームス・ブラウンから美空ひばり、松田聖子、平井堅、そしてボーカロイドにまでおよびます。
これらを通して、音楽だけでなく、舞踏や演技も含めたすべての芸能の深遠な世界に触れることができるのも、本書の魅力の1つです。
■武田梵声氏出演の本書予告動画あります! ご興味があればぜひご覧ください。
『「3つの音」だけで最高の声になるボイストレーニング ゴルジャメソード入門』 著者・武田梵声氏が解説する「ボイトレの秘伝書」#1
『「3つの音」だけで最高の声になるボイストレーニング ゴルジャメソード入門』 著者・武田梵声氏が解説する「ボイトレの秘伝書」#2
著者プロフィール
武田梵声(たけだ ぼんじょう)
フースラーメソード指導者、ゴルジャメソード指導者、芸能学指導者、パフォーマンス教師、瞑想指導者。國學院大学で折口信夫の古代芸能学、エラノス理論を学び、クレッチマー流派でゴルジャメソード、フースラー発声学を学ぶ。桐朋学園大学で民族音楽学、民謡分析法カントメトリックシステム、舞踊分析法コレオメトリクス、アルトー演劇学を、東洋大学印度哲学科で、インド哲学、インド瞑想理論を学ぶ。
古代芸能学を軸に、歌唱、発声、舞踊身体論、演劇、瞑想といった各芸能ジャンルにおいて聖典とされてきたメソッドを統合した古代芸能者養成法マレビトシステムを考案し、ほとんどすべての芸能ジャンルの指導を行なってきた。
劇団四季、帝劇、宝塚、アナウンサー、声優、プロ歌手はもとより古典芸能、アングラ演劇、アバンギャルドなど、幅広い分野で指導を行なう。民謡コンクールや民俗芸能、民族音楽、寄席芸などの国内外のコンクール優勝者を多数輩出する。
主宰するオルフェ歌唱芸能研究所、私塾野生の声音では、身体論の聖典ラバンシステム(ラバンのエフォート理論)、ディヴァインスパーク瞑想、歌唱発声学の聖典フースラーメソードやゴルジャメソード、イクステンデッドゥボーカルテクニックなどの指導を世界最高水準で行なっている。
著書に『こどものための究極☆正しい声のトレーニング』『ボーカリストのためのフースラーメソード』(リットーミュージック)、『フースラーメソード入門(DVD付)』(日本実業出版社)、『野生の声音〜人はなぜ歌い、踊るのか〜』(夜間飛行)がある。