どれだけ気をつけていても人間である以上、ミスはつきもの。大切なのはミスをした時の「謝り方」です。2000件以上のクレーム対応を乗り越えてきた、クレーム・コンサルタントの谷厚志さんは、謝罪をきっかけに上司や先輩、顧客から大きな信頼を得ることも可能だといいます。

今回は谷さんの新刊『損する言い方 得する言い方』の中から、ビジネスのターニングポイントともいえる謝罪の場面で、相手の怒りをしずめて良好な関係に持ち直す方法を解説します。

※本稿は『損する言い方 得する言い方』(谷厚志)を再編集しています

相手の話を聴くのは「怒りのクールダウン」につながる

上司の話が終わっていないにもかかわらず、話をさえぎって自分の話を始めてしまう人がいます。叱責や指摘に関しては、仮に相手の思い込みや勘違いで自分に非がない可能性があった場合でも、相手の話が完全に終わるまでは口を挟まずにすべて聴くことに徹することがとても重要です。

「聴く」に徹することで、相手がすごく怒っていても、言いたいことをすべて出し切ると、相手は必ずクールダウンします。自分に非がなくても、話をすべて聴くことで相手は落ち着いていきます。その後は、お互いに冷静な対話ができるようにもなります。

しかしながら、上司の叱責に対して「以後、気をつけます」「同じことがないようにします」というように、話をすべて聴かないうちに自分から話を終わらせようとする、いわゆる“火消し”をしてしまう人がいます。

これをしてしまうと、「黙って聴け!」と相手は激高します。最初は、あなたの仕事ぶりに対して叱責していた上司が「お前はなぜ、いつも人の話を聴かない。誰からも信用されなくなるぞ!」というような違う観点で叱責を受けることにもなりかねません。こうなると、対立状態が続き、叱責される時間も長くなります。

指摘を受け入れないのは「傷つきたくない」から?

ここまで、話を最後まで聴かない人がいかにまずいことになるか、という話をしてきましたが、これらはすべて過去に私がやっていたことです(涙)。とても恥ずかしい話なのですが、私はすぐに火消しに入ろうとするタイプでした。他人から自分のダメな部分を指摘されることや責められることに恐怖心を持っていたのです。

私のダメなところは、コミュニケーションの原則である“相手視点”という観点が抜けていることでした。“自分が傷つきたくない”という気持ちが先行して、その場から早く逃げようとする一番質(たち)が悪い考え方でした。自分のことだけしか考えていなかったのです。

今になってみれば、過去の私の仕事上での悩みやトラブルのほとんどが、“相手の話を傾聴する姿勢”がなかったことが原因で起こっています。自分にとってよい指摘をしてもらっていたはずなのに話を聴くことができず、自分が成長するきっかけを失っていたのです。すごくもったいないことをしていたと反省するばかりです。

問題解決の基本は、相手の「よき理解者」になること

私はクレームの専門家なので、この仕事をやり始めてから一番受けてきた質問は、「クレーム対応は、どうすればうまくできますか?」です。

その質問の答えを簡潔に理解してもらうために、「取材するぐらいの気持ちで相手の話を聴こうとすると、必ずうまくいきます」とお伝えしています。実は、お客様相談室時代にクレーム対応で私がお客様に何度も言われたのが、「あなたは何もわかっていない」「私がどれだけ嫌な気持ちになったのかがわかりますか?」でした。

今だから言えることですが、私は「どうやって、このクレームを終わらせるか?」と、「このクレームの解決策の落としどころはどこか?」ばかりを考えていました。「サービスが悪すぎる! お金を返してほしいぐらいです!!」とお客様から言われたので、「すぐに返金のお手続きをいたします」と返答したことがありました。すると、そのお客様から、「やはり、あなたは何もわかっていない」と言われたのです。

当時の私には意味がわかりませんでした。お客様の要望どおりに、お金を返す手配をするという解決策を出したにもかかわらず、お客様はさらに怒りを大きくしたのです。

しかし、このやり取りで気づいたことがあります。それは、お客様は問題を解決してほしいというより、気持ちをわかってほしいからクレームを言ってきたということです。おそらく、そのお客様は「お金を返してほしい」と言いたくなるぐらい、嫌な気持ちにさせられたことをわかってほしかったのだと思います。

私がやるべきことは、お客様の気持ちに理解を示すことだったのです。「そうでしたか。お話、よく理解できました」「そんなことがあると、嫌な気持ちになりますよね」というような言葉をお客様に伝える必要があったのです。相手の話を最後まで聴き、よき理解者になることが相手の怒りの気持ちを癒すことにつながるのです。

「相手視点」で考えれば、何するべきかに気づける

このときも、やはり私には聴く力が欠如していたのです。お金を返すことで許してもらおうとしていたことがうまくいかない最大の理由だったわけです。許してもらおうとすることと、理解しようとすることは全然違います。許してもらおうとするのは、自分のことしか考えていないからです。“この場を何とか収めたい””この状況から早く逃げたい”という気持ちで、その場限りの対応になっていたのです。これでは、相手と良好な関係を築くことができるはずはありません。

相手の気持ちを理解しようとして話を聴くようにすれば、相手と同じ問題を共有したパートナーの関係になって、「そうか! だから、こんなにお客様は怒っていたのか」「期待していたことと違って、ガッカリされていたのか」というように、お客様が怒っていた理由も手に取るようにわかってきます。

これがわかるようになれば、自分が何をするべきかにも気づくことができます。まさに、解決というゴールに向かって相手と同じ方向に進んでいくことができるのです。私はこのことを学んだ後、クレーム対応で炎上させることはなくなりました。

◎相手からの怒りや指摘は、すぐに収束させようとしてはいけない
【損する言い方】

「同じことがないように気をつけます」「再発防止に努めます」
【得する言い方】
「お話しいただいたこと、よくわかりました」「よく理解できました。次はこうしたいと思います」