被疑者が隠している事実を心から完全に反省し真実を言わせることを、刑事の世界では「完落ち」と言います。被疑者といえども、人には誰にでも言いたくないことがあり、それに対して刑事は言いたくないことを言わせなければならない立場にあります。ですから、取調べにおいて大切なのは、人と人との心の触れ合いです。

そういった意味で、刑事は「コミュニケーションの専門家」と言えます。さまざまな職種や立場の方と接し、相手の心理を読んで、言いたくないことを聞き出すというスキルは、世の中の幅広い職業に活かせるのではないでしょうか。

詐欺や横領、贈収賄、選挙違反などの事件で2000人以上の取調べを担当してきた元敏腕刑事であり、『元知能犯担当刑事が教える ウソや隠し事を暴く全技術』の著者・森透匡さんが、会社の部下や同僚、交際相手の隠し事を暴く方法を解説します。

※本記事は同書の一部を抜粋・編集したものです

人には誰しも言いたくないことがある

私たち人間には、多かれ少なかれ、他人には知られたくないこと=言いたくないことがあります。そして、それを「言いたくないとき」や「言いたくない場所」があり、そもそも「言いたくない相手(例えば、恋人や結婚相手、会社の同僚など)」もいます。

誰にも知られたくないことや言いたくないことを話すということは「自己開示」することであり、相手から本心を引き出したいなら、自己開示を促す必要があります。

ここでは、知られたくない・言いたくない話を聞き出す3つのテクニックを紹介します。

対面よりも「横並び」に座るのがベスト

もし、あなたが上司から「ちょっと大事な話があるんだけど来てください」と呼ばれた場所に行くと、そこは体育館で真ん中にテーブルと椅子が置いてありました。上司に「ここに座って」と言われましたが、こんな場所で話をする気になるでしょうか?

夏なら暑いし、冬なら寒い。おまけに声は屋内に反響するし、早く終わらせたいと思っても話したいことすら話せないかもしれません。要するに、部屋の広さ、気温も自己開示に影響を及ぼすということです。

では、部屋が広くても、室内が薄暗いとどうでしょうか? 視界が狭くなると、意外と話しやすくなります。つまり、明るさというのも自己開示に影響します。

ちなみに、私の起業塾の師匠で、一般社団法人日本焚き火コミュニケーション協会代表理事の三宅哲之さんは「焚き火コミュニケーション研修」を通じて、社員がホンネで話せる場づくりをしています。

これは、周囲が暗くて視野が狭くなり、なおかつ、ゆらゆらと揺れる焚き火の火を見ているだけで心が休まり、話しやすい環境になるからです。私も体験しましたが、暗い森の中で焚火を囲んでいると、見ず知らずの人にもついホンネを話せたりします。

また、公園のベンチに奥さん、あるいは旦那さんと二人で座っているときはどうでしょうか? 景色も良くて、前も開けていてお互いの顔も見えないので、昔の思い出話に花が咲くかもしれません。恋人とのドライブもそうですね。二人でドライブに行くと、会話が弾んで以前よりも仲良くなったりします。

他には、あなたが部下と二人で遠方に出張に行くことになったとします。新幹線では横並びに座りますよね。出張先に到着するまで、普段以上に話が弾んだという経験をしたことがあるのではないでしょうか。これも「横並びの効果」です。

私も取調べをしていて核心に迫る話をするときには、あえて横に座り直して話を聞き出すこともありました。正面に座るよりも少し距離も近くなり、親近感が湧くので緊張感も和らいで話しやすくなると思います。相手の懐に飛び込むには距離を詰めることも大事ということですね。

大事な話を聞くときの環境は間違えない!

私は数多くの講演に登壇してきましたが、最後に「何か質問はありますか?」と参加者に向けて尋ねると、まず質問は出ません。参加者が20〜30人程度の少人数ならば質問が出ることもありますが、数百人、最大1000人など人数が多ければ多いほど、大勢の前で質問をすることは躊躇される傾向にあります。

これは、自分の質問を他の多数の参加者が聞くので、「『そんなことも知らないの?』と思われたら恥ずかしい」というように周りの目を気にしてしまうからです。いわば、集団圧力の影響です。

刑事は、基本的には取調室という個室で、誰にも聞かれないように話を聞きます。しかし、軽微な犯罪で共犯者が多く、任意の取り調べを行なう場合などは、会議室などの広い部屋で一斉に話を聞くケースもありました。そもそも、小さい警察署ですと、取調室の数が足りないので、会議室をパーテーションなどで仕切り、簡易的につくった取調室で事情聴取をします。

こうしたケースだと、簡易的な仕切りはあるものの、隣のテーブルの取調べや周囲の人が気になって、取調べを受ける対象者はなかなか本心を話してくれませんでした。これも、集団圧力の影響です。

つまり、もしあなたが会社の部下から本心を聞き出したいと思ったら、周囲に誰もいない状況で聞いたほうがいいということです。周りに他の社員がいて聞き耳を立てていたら、なかなか本心を話せないものです。とくに、大事な話を聞き出したいと思ったら、そういった点にも配慮してください。

相手の悩みは「自分事」として考える

あなたの友達が自分の家族の悩み事を話し始めたとしましょう。今までそんな話を聞いたことがなかったので、あなたは驚きましたが、聞いているうちに「私にもそんな経験があるし、よくわかるよ」と思って自分の経験や悩みも友達に話してしまった、こうした経験があるかと思います。

これは「自己開示の返報性」という効果です。相手が自己開示してくれたので、それに合う深さの自己開示を自分もしてしまったというわけです。

このように、自己開示というのは相手に伝染します。「相手が心を開いてくれたから、自分も開こう」というのが人間の心理です。ですから、こちら(聞き出す側)から心を開いて接するということが大事なのです。

私は取調べでは、相手より先に自己開示するように心がけました。もちろん、開示できる範囲ではありますが、趣味や家族構成、学生時代に流行ったこと、好きな芸能人など割と話しやすい話題から開示しいくと、そんなことを唐突に話す刑事はなかなかいないので、「この刑事さん、おもしろいな」と思われます。そうなれば、一歩前進です。

ここで、自己開示する際には、相手の話を聞いたうえで「自分事」で考えて自己開示することがポイントです。私は、子供と話をするときも「自分事」として捉えて話すようにしています。

例えば、息子が「彼女にフラれた」と自己開示したとします。それを聞いて「なんでフラれたんだ? また新しい彼女を見つけたらいいよ」というように、興味もなく他人事のような言い方で返すと話は続きません。ですから、「俺も高校時代ねぇ、そんなことがあったなぁ。俺の場合は……」と自分事として捉えて自己開示するのです。

また、悩みを相談されたときも「俺だったらどうするかな?」というように自分事として考え、それを自己開示します。そうすると、息子は隠し事もなく、なんでも話してくれました。私が自分のことのように捉えて息子からの相談に乗ったので、彼自身もさらに自己開示しようと思ったわけです。こうなれば、会話がどんどん広がっていくものです。