中学に入って最初に習う「正負の数」は、勉強をしていて初めて「マイナス」の概念に触れる機会になります。「正負」というと分かりにくいですが、他の言葉で置き換えるなら、「貯金と借金」です。

例えば、自分がお小遣いを貯めて持っているお金を4,000円とします。そのお金で靴を買おうとするものの、値段を見てみると5,000円します。これでは靴を買うことはできません。そこで母親にこうねだります。

「お母さん、どうしてもあの靴が欲しいから、お金を貸してくれない?」

返す期日を約束して1,000円貸してもらい、靴を買うことができました。手持ちは4,000円、そして靴は5,000円。「4,000円-5,000円=-1,000円」、つまり「1,000円の借金ができた」ということになります。これがマイナスの考え方です。

また西口さんによれば、中学数学の計算間違いで多いのが、プラスとマイナスの符号ミスなのだそうです。

多くの生徒は「プラスとマイナスを間違った(だけ)!」と軽く考えてしまいます。しかし、実社会で「貯金と借金の違い」が分からないのは致命的です。だから「プラス、マイナスのミスは重大なミス!」なのです。

髪の毛事情で分かる「マイナスとマイナスを掛けるとプラスになる理由」

「正負の数の計算(掛け算)」にある落とし穴、「マイナスの数字とマイナスの数字を掛け合うとプラスの数字になる」の理屈を説明するために、西口さんは自身の髪の毛事情(!?)を晒します。

毎日髪の毛が2本ずつ抜ける西口さん。今日を基準に考えると、明日まででは「(-2)本×1日」ということでマイナス2本、明後日までになると「(-2)本×2日」でマイナス4本の予定で髪の毛が抜けていくことになります。

では、過去はどうなのでしょうか?

昨日は「(-2本)×(-1)日」となるので、今日より髪の毛が2本多かった(プラス2本)ことになります。同じように、3日前だと「(-2本)×(-3)日」なので今日より髪の毛が6本多かった(プラス6本)ことになるのです。

数学を専門的に学んでいない人の多くは、「マイナスとマイナスをかけるとプラスになる」ということを漠然と覚えてしまっています。しかし、それでは子どもから「なんでプラスになるの?」と聞かれたときに納得のいく答えを教えられないはずです。

もし質問されたら、自分の髪の毛事情を用いて、説明してみると子どもは納得してくれるかもしれませんよ?

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この西口さんの『中学数学のつまずきどころが7日間でやり直せる授業』は、さまざまな例えや分かりやすい法則を用いて、中学数学でつまずきやすいポイントを7日間でおさらいできるようになっています。

この本を読み進める上で大切なことは、最初から順番に読んでいくこと。

中学数学をやり直す第一歩からはじまり、計算力をつける工夫、関数でつまずきやすい部分の克服と、順序立てて説明されています。その裏には西口さんの次のような意図があるようです。

……うっかりミスの本当の原因は練習不足なのですが、「今回は、たまたま間違えた」と軽く考える生徒が非常に多いのです。そのような生徒は、毎回毎回うっかりミスを繰り返してしまいます。

そこで、私は「基礎・基本を徹底的に反復練習して、数学の底力をガッチリ固めることこそが、うっかりミスを減らし、学力向上への一番の近道」と結論づけ、OJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)方式で毎日の指導にあたっています。

(本書3ページより)

数学に限らず、何事も基礎・基本が大切です。子どもの数学への苦手意識の克服のためにも、自分自身でまず数学の基礎を学び直してみてはいかがでしょうか。