顧客層を世界規模に広げるため、業態や企業規模を問わず行われているグローバルマーケティング。たとえば、観光業界では「WiFiスポットの設置や案内表示の充実」などハード面の対応から宣伝・プロモーションといったソフト面の対応に注力の軸を移し、訪日外国人の増加を目指している。

こうした国外向けの対策として真っ先に考えられるのが「マルチリンガル(多言語対応)化」だろう。このとき「既存の国内向けサイトを翻訳するだけ」と安直に考える企業・団体も多いが、実はそれだけでは済まない。記号の意味や日付の表現ひとつとっても、国によって意味合いが異なるからだ。

では「真のマルチリンガルサイト」を構築するには、どこに留意すべきなのか。その答えをタイ王国領事館勤務を経て数々の企業のグローバルサイト構築に携わり、訪日外国人向けサイト「japan-guide.com」の運営に関わっている高岡謙二氏の著書をもとに探る。

翻訳はなによりも“質”が大事

一般的に翻訳作業を外注する場合「1文字あたり○円」で見積りをとるが、このとき価格だけではなく「翻訳の品質」にも留意する必要がある。ここでいう品質とは

  • スペルミスなど、間違いの多寡
  • 用語や表記の統一
  • 伝わりやすい文章表現かどうか

の3つが主であり、たとえば「表記の統一」では以下のようなケースを考える必要がある。

大阪に淀川という川があります。この川を英語で表現する際、“Yodo River”としても“Yodogawa River”としても翻訳としては間違いではありません。

しかし、同じ文章の中で双方の表現が登場すると、“gawa=川”という認識がない外国人には同じ河川であると認識できません。もちろん、プロの翻訳者の場合は、さらにどちらの訳のほうが頻出度が高いのかをネットで調べたり、より公式なソースがどちらの表現を使っているのかを当たったりして、最終的にどちらに統一するのかを選択していきます。

ちなみに、日本国内の地名等に関する多言語表記の方法については、観光庁よりガイドライン(PDF)が出ていますので参考にしてください。

(『海外Webマーケティングの教科書』p79-80より引用、一部編集)

また、一般的な商業翻訳において、翻訳会社はクライアントの特別な要求がない限り(クレーム対策も兼ねて)「直訳」調の翻訳をする傾向がある。それを避け、自社商品や観光資源の魅力を引き出した翻訳をしてもらうには、発注者側が監修者や翻訳担当と事前に面談を行い、希望の表現も含めた意図をすり合わせなけばならない。

しかし、このときに発注者側が行ってはならないこととして次の二つがある。

  • 詳細な要求を伝えずに発注した後、確認を目的とした「日本語への再翻訳」を頼む
  • 発注者側に在籍する「英語が得意な日本人」が、翻訳に勝手に手直しを入れる

前者は読み手への伝わりやすさが無視され、再翻訳によるチェックをパスするためだけの「ガチガチの直訳」が出てくる原因となる。

そして後者は、翻訳を担当したネイティブによる「その言語圏に属する人向けに調整した表現やリズム」を、そうした土台のない日本人が台無しにしかねないためだ。これは、その言語で生まれ育ってきた「ネイティブならではの表現」と「語学が堪能な日本人が正しいと思う表現」は往々にして異なるという事情による。