スピーチ、朝礼、プレゼン、会議……。何度も話す練習をしたのに、人前で話すとなるとなぜか上手くいかない。それはあなたが挑む「場」がアウェーの状態だからかもしれません。野球やサッカーの試合と同じように、「場」の空気がアウェーかホームかで、パフォーマンスに驚くほどの違いが出るのです。

『誰からも必ず「よかった!」と言われる話し方39のコツ』の著書である夏川立也氏は、大学在学中に桂三枝(現、六代目・桂文枝)氏に弟子入りし、長寿テレビ番組「新婚さんいらっしゃい!」の前説を10年間務めた人物。現在は「話し方」の講師として活動し、その受講者は累計15万人を超えています。そんな夏川さんの著書より、「場づくり」のコツをみてみましょう。

1. 話し始めは、緊張すればいい

人前で話す時のあのイヤーな緊張感は、だれもがあまり味わいたくないものです。

しかし「どうすれば、緊張しないようにできますか?」という質問に対して、「緊張してください」と夏川さんは必ず答えるそうです。というのも、“正しく緊張する”のはよいことで、緊張のないところに、いいパフォーマンスはないから、だとか。

そもそも、「緊張」とは防衛本能の一つであり、大勢の人を前にしたり、よりよい結果を残したいと思った時に起こる自然な感情です。つまり、人前で緊張するというのは、話し始める準備段階に入っている状態であり、ごく当たり前のことなのです。

駄目なのは緊張が悪い方向に向かってしまい、頭の中に生まれた雑念から、頭の中が真っ白になってしまう状態です。「何から話し始めるんだったっけ……」と思い始めたとたん、「あれをいい忘れた……」と雑念が雑念を生み、頭が真っ白になる。誰にでも経験のあることでしょう。

なぜ雑念が生まれるのでしょうか。それは頭のなかに余計なスペースがあるからです。そのスペースを埋めるためには、話す前に自分のテンションをマックスにすることが有効だとか。

テンションをマックスにする方法は、とにかく一生懸命に、必死で話すことです。お腹に力を入れて、できるだけ大きく声を出しましょう。とくに出だしは大きな声のほうがいいです(ただし、聞き手に引かれないようにボリュームに注意してください)。

そして、「みんなを感動させよう」「最高のトークをしよう」などと理想を高く持ちすぎている人が少なくありませんが、理想は低く、できることしかできないのですから、最後は開き直っていきましょう。

(本書33ページより)

2. 空気はよむだけでなく、つくる

2007年「空気を読めない(KY)」というフレーズが、ユーキャンの新語・流行語大賞にエントリーされ、一般に浸透しました。そのあたりから、私たちは「空気を読む」ことを、以前にも増して意識するようになりました。もちろん状況に応じて空気を読むことは大切ですが、人の前に立って話す場面においては、空気を「つくる」ことがもっと重要です。

たとえば重い雰囲気の会場で話すとき、その雰囲気に引きずられてしまっては、いくら一生懸命に話してもあまりいい結果にはならないでしょう。そこで、第一声で「思った以上に重い空気で、プレッシャーを感じてます……」と言ってみる。聞いている人はあなたに共感するのではないでしょうか。そして結果として、会場全体が一体となるきっかけになるかもしれません。

そんな場をつくることができれば、もう怖いものはありません。

いつも理想の状態で話すことができるわけではないからこそ、空気をつくり、徐々に周囲をあなたの味方に変えていくのです。

(本書、28ページより)       

 3. テンションをコントロールして、聞き手を惹きつける

多くの人を惹きつける人は、第一声から違います。

たとえば「こんにちは!」という、一言で場の空気をホームに変えることも。具体的になにが違うかというと、滑舌やアクセント、声の強弱など、いろいろな理由がありますが、一番の違いは“テンション”です。といっても、ただテンションをあげればいいわけではありません。誰もが予想するレベルより若干高くするというのがポイントです。

100人を前にして、1人に面談しているような話し方ではテンションが低すぎですし、逆に100人しかいないのに数万人を前にしているようなテンションで挑むと、聞き手は大きな違和感を感じて引いてしまいます。

夏川さんによると、ちょうど2倍くらいのキャパシティを意識するとちょうどいいそうです。100人の会場であれば200人の会場だと思って、最後列のさらに後ろの人に向かって話すイメージを持つ。10人の前での発表であれば、20人に伝えるつもりで話す。それだけで声のハリや大きさが変わり、伝わりかたが大きく変わるそうです。