このように、「変化を嫌う」「現状維持を好む」という傾向は人間の本質であるといえます。これに抵抗するということは非常に難しい。

しかし、これからの時代、私たちは、この私たちの「本質」に抵抗しないと生き残っていけない。

変化する=自分の過去を否定すること

「変化の時代には、大企業であることは競争優位の条件ではない」と言われるように、また、以上に見たように、大企業ではイノベーションが生れにくい。だからグーグルは、ロボット技術に優れた東大発のベンチャーを買収した。

また、日用品メーカーであるP&Gは、社内で開発した新商品の財務目標達成率が35%を切ったことをきっかけに、新しい技術を持った小さな企業を探し出してその特許を買ったり、買収する活動を本格化させました。

ジャック・ウェルチは「我々は小さな会社の精神を大企業に植え付けようと日々努力している……。GEは変わった。官僚主義がはびこっていたGEが、小さな会社のように運営されている」と言いました。大企業、歴史のある企業はリスクを取れないからです。

自分の過去を否定するということはなかなか難しいことです。しかし、それを果敢にやり遂げたスティーブ・ジョブズは手本となる存在でしょう。iPadやiPhoneは、自らがつくった革新的な製品であるマッキントッシュというパソコンを、使わなくても済むようにしてしまう製品です。彼は過去を否定したから、新しいものをつくることができたんです。

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最後に「変化」に関する3つの名言を紹介します。

「これらの改革については後で、同業他社から、誰にでもできる、と言われました。確かにその通りですよ。ただ、早くできるかどうかは、別です」

三菱ケミカルホールディングスは石油化学産業が大きな構造変化を迎える中でいくつかの事業から撤退しましたが、当時の社長はこういいました。他社もやっていることを、横並びでやっても遅い。重要なことは、他に先んじていかに早く実行できるか、です。

「変化に鈍感、または成功体験が長い組織は必ず衰退の道を歩みます」

りそなホールディングズは経営破綻、実質国有化を経験しました。すでに亡くなっていますが、再建に携わった当時の細谷英二会長の言葉です。

「最も強い種、あるいはもっとも高い知性をもつ種が生き残ったわけではない。もっともうまく変化に対応することができた種が生き残った」

これはチャールズ・ダーウィンが言った(とされる)言葉で、私がもっとも好きな言葉です。

人間は、本質的に変化するのが嫌いで、現状維持が大好きな存在です。でも、この変化の激しい時代において、うまく変化に対応できなかったら生き残れないかもしれない。もう高度経済成長時代でもないし安定成長時代でもない。だからいやでも変化しなければいけない。こわいのは当たり前です。人間は本質的に、そういう存在なのですから。

(終わり)


ルディー和子
ビジネス評論家。立命館大学経営大学院経営管理研究科教授。セブン&アイ・ホールディングス社外監査役。米化粧品会社エスティローダー社マーケティングマネジャー、タイム・インク/タイムライフブックス部門ダイレクトマーケティング本部長を経て、ウィトンアクトン社代表取締役。日本ダイレクトマーケティング学会副会長。著書に『ソクラテスはネットの「無料」に抗議する』『売り方は類人猿が知っている』(日本経済新聞出版社)、『マーケティングは消費者に勝てるか?』(ダイヤモンド社)ほか多数。