菊地氏はこうした現状をふまえ、外国人投資家の視点を次のように解説しています。

一方、国家戦略特区の大都市圏で、外国人による家事支援が可能になりました。インバウンドの規制緩和で大きな役目を果たした菅義偉官房長官は、自らの選挙区である神奈川県の特区で、2017年2月から外国人による家事支援サービスが始まり、女性活躍を通じて経済成長につながると述べました(参考:官房長官、外国人による家事支援サービス「来月から神奈川県で開始」、17/1/5付日経新聞)。

パソナグループ(2168.T)やダスキン(4665.T)などが、外国人による家事支援事業に乗り出しました。東京在住の外国人投資家はこの制度を利用したいと思っている人が多いため、関連銘柄に関心を示しています

2008年に自民党の外国人材交流推進議員連盟が、50年間で1000万人の移民受け入れを提言したことがありました。提案を中心的にまとめたのが当時の自民党幹事長だった中川秀直氏で、2006年に『上げ潮の時代  GDP1000兆円計画』(講談社)という著書を出しました。

安倍政権はGDP600兆円を目指していますが、それを実現する一策として、同様の外国人受入拡大策を策定すれば、ポジティブサプライズとなり、外国人投資家の日本株買いが急増するでしょう。ただ、現実的にはそうした政策は考えにくいところです。

(本書P.96-97より、一部編集により追記)

AI、ビッグデータ、IoT関連

(photo by by Petrovich12/fotolia)
(photo by by Petrovich12/fotolia)

これらのテーマは政府の成長戦略でも繰り返し掲げられていることもあり、多くの国内企業が関連事業に参画しています。国内でAI関連事業に積極的な投資を行っている大型銘柄といえば、ソフトバンク(9984.T)やリクルートHD(6098.T)がありますが、現状ではAI関連というよりも情報通信および人材関連銘柄として見るのが主流です。

また、AI関連で時価総額が小さい企業、あるいはビッグデータ・IoT関連企業で外国人が「これは!」と思うような銘柄は、今のところ国内にはないと菊地氏は述べています。

AIは企業の命運を左右する将来の成長分野だけに多くの企業が参入していますが、日本の場合、AI関連株で外国人投資家の投資基準を満たす大型株がほとんどありません

時価総額が小さい企業ではFRONTEO(2158.T)、JIG-SAW(3914.T)、ホットリンク(3680.T)などが自らもAI企業と株式市場にアピールしていますが、外国人投資家に訴求できていません。

ビッグデータも、NTTデータ(9613.T)、富士通(6702.T)、日立製作所(6501.T)など多くの企業がやっていますが、コングロマリット的な事業構造に加えて、成長率が低いので、ビッグデータ関連の成長企業とはみなしにくい面があります。IoTの定義はさらに広いので、銘柄選択に困ります。

日本企業でIoT関連の大型株といえば、キーエンスや日本電産(6594.T)などを挙げざるを得ませんが、相対的に割安な三菱電機(6503.T)などもIoT関連株とみなす向きもあります。いずれにしてもIoTのど真ん中に当てはまる企業ではありません。

(本書P.117より、一部編集により追記)

その一方で、菊地氏は「ロボティクス(AIやIoTなども含めた、生産性向上に資する広義のロボット工学)」に関する外国人投資家への関心が強いと指摘しています。日興アセットマネジメントが販売する「グローバル・ロボティクス株式ファンド」を引き合いに、次のように述べています。

このファンドはグローバルに投資できるにもかかわらず、上位10組入銘柄のうち半分を日本株としているのは、日本がロボティクス分野に強みを持つからでしょう。安川電機(6506.T)はかつて地方(本社は北九州市)の重電企業とみなされていたことがありましたが、いまやグローバルなロボット企業とみなされるようになり、ブラックロックも大量保有報告書を2017年6月に出しました。

日興アセットマネジメントは、日本株だけのロボティクス株に投資する「ジャパン・ロボティクス株式ファンド」も運用していますが、2017年9月末に純資産が600億円を超えました。同ファンドの上位組入は、2位のキーエンスより上に、搬送機械を得意とするダイフク(6383.T)が1位となっています。

私は2017年7月に、工場敷地面積を2.5倍にしたばかりのダイフクの上海工場を見学したことがあります。4万平方メートルの新工場で稼働しているのは半分程度でしたが、2〜3年以内にフル稼働にしたいと聞きました。

ダイフクは、中国国有企業の液晶・半導体の積極投資から恩恵を受ける数少ない日本企業で、中国の空港建設の拡大や、Eコマースの普及からも中長期的に受注の拡大が見込めます。中国は生産性向上のために、日本の機械を必要としており、工作機械受注でも中国からの受注が高い伸びになっています。

(本書P.119より、一部編集により追記)