2017年も残すところあとわずか。相場格言で「申酉騒ぐ」と言われるように、酉年である今年の株式市場は非常に大きな動きに見舞われました。昨年11月の米大統領選を境に上昇に転じた日本市場は、北朝鮮による地政学リスクの顕在化で春先に一時大きく下げるも、マーケットは相次ぐミサイル報道に対する「耐性」を備えて小幅な値動きになり、秋口からは記録的な急騰劇が繰り広げられました(上図参照)。

ここで注目したいのは、上図における赤線(日経平均)と青線(ドル円)の乖離が今年に入ってから広がっている点です。従来は「輸出関連銘柄が大きな割合を占める日経平均は、為替に連動する」のが“常識”とされていましたが、それを決定的に打破したのは「外国人投資家」でした。米国10年債利回りの底打ちをはじめとするさまざまなマクロ要因により、海外マネーが一気に日本市場に流入したためです。

では、外国人投資家はどのようなスタンスで日本市場・銘柄に注目しているのか。外国人投資家と日本株に関する多数の著書がある菊地正俊さんの最新刊『日本株を動かす外国人投資家の儲け方と発想法』(以下、本書)の内容から、一部をみてみましょう。

外国人投資家が日本市場に注目する条件

外国人投資家は基本的に時価総額が大きい銘柄を好みますが、より関心を持ちやすいのが「新しい成長企業株(グロース株)」や「サービス業」です。

国内で時価総額が大きい業種というと、電気(例:キーエンス(6861.T))、輸送機(例:トヨタ(7203.T))、情報通信(例:NTT(9432.T))、銀行(例:三菱UFJ(8306.T))などがありますが、「電子部品などハードウェアに強いのは魅力的だが、アメリカのFANG(Facebook、Amazon、NetflixGoogle)のようなネット株がない(電機)」、「EVの開発競争に後れを取っている(輸送機)」、「株主還元が欧米大手銀行に比べて見劣りするほか、日本の内需を表す業種なので先行きが政策次第で変わる(銀行・不動産など)」といった見方もあるため、必ずしも「日本株=好意的にみている」というわけではないといえます。

また、時価総額が大きいといっても国内最大のトヨタで約20兆円なのに対し、Amazonで約50兆円、中国のアリババでも約40兆円と大きな隔たりがあります。こうした事情に対し、菊地さんは日本市場に対する懸念を、次のように指摘しています。

時価総額という観点では、2017年7月に米国のテスラが時価総額でGMを抜いたことは、自動車業界の新旧覇権の交代とみなされました。テスラの時価総額は約7兆円と、ホンダ(7267.T)や日産自動車(7201.T)を上回ります。

米国ではアップル、アマゾン、フェイスブック的な新興企業が時価総額上位に並んでいるのに対して、日本の時価総額上位には依然として大手銀行に加えて、NTTや日本郵政(6178.T)など旧国営企業が多いことは、日本経済の新陳代謝の遅れの反映でしょう。

海外主要株式市場との比較で、日本の時価総額の相対的な比重が低下すると、「日本株は無視してもいい」という見方が外国人投資家のあいだで広がる忌々しき事態となります。

(本書P.30より)

一方、小売業のニトリHD(9843.T)や良品計画(7453.T)といった独自の経営戦略を持っている企業は高く評価されています。そのほか、サービス業は現時点の時価総額は小さい(東証1部における時価総額比重は4%、17年10月時点)ものの、旧来型産業より将来的な伸びしろが期待できるため、関心を寄せやすい状況があります。

外国人が注目する日本株の投資テーマとは?

市場には“旬”が存在します。ここ1~2年の流行り廃りでみると「ドローン」「マイナンバー」「AI(人工知能)」「仮想通貨」「EV(電気自動車)」などがあり、それぞれの関連銘柄は注目とともに株価が上昇し、利益確定とともに下落するといったサイクルを繰り返してきました。

こうした「テーマ株投資」と呼ばれる行動は、外国人投資家も同様に行います。では、外国人が現在注目しているテーマにはどのようなものがあり、それぞれの特徴はどうなってるのでしょうか。その一部を、菊地さんの所見を交えながら見てみましょう。

人材関連

安倍首相が掲げる「労働市場改革」には、外国人も注目しています。しかし、その着目点は残業時間削減に代表される「働き方改革」ではなく、「解雇規制の緩和」と「労働力人口の減少に伴う移民政策」についてです。

とりわけ移民政策について、 現在の安倍内閣は高度外国人材の拡充などは行っているものの、基本的には「生産性の向上」「女性および高齢者の労働支援」の方向で動いており、移民政策による労働力の拡充には否定的な立場をとっています。とはいえ、日本人の人口減を補う形で外国人の増加が進んでおり、こうした「静かな移民」の存在を指摘する声もあります。