『規程例とポイントが〈見開き対照式〉でわかる就業規則のつくり方・見直し方』の著者である特定社会保険労務士の大槻智之さんは、日々就業に関するトラブルの解決にあたっています。

「解雇や労働条件について社員ともめています」「休みがちな社員の扱いに困っていて……」
そんなクライアントからの相談に対して、まず大槻さんが確認するのが「就業規則」だとか。そこで、会社のルールブックとして重要な就業規則のつくり方・見直し方についてお話をうかがいました。(文責:日本実業出版社)

就業規則は会社の「ルールブック」

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大槻智之さん

―就業規則についてあらためてご説明いただけますか?

簡単にいうと、会社の労働時間や給与その他の労働条件等を定めた「ルールブック」です。就業規則の作成については労働基準法によりさまざま取決めがありますが、「経営者が独自にルールを定めることができる」「経営者であっても一方的に不利益になるような変更をすることができない」という2点が、特徴としてあげられます。

つまり、労働基準法の労働条件を下回ることのない範囲であれば、経営者が独自のカラーを出したルールを決めることができます。その一方で、一度決めたルールを経営者の判断のみで一方的に不利益変更することもできないということが重要ですね。

―就業規則の作成・見直しはなぜ必要なのでしょうか?

クライアントの相談にのっていて感じるのですが、昔に比べて退職・解雇・異動など、さまざまな場面で労使トラブルが非常に増えています。今はインターネットなどを使って情報を得ることができるため、社員のみなさんもしっかりと就業規則を読んで矛盾をついてきますね。

そういったトラブルを未然に防ぐとともに、自分たちで解決するために、就業規則の作成・見直しがとても大切になります。なぜなら、会社のルールがきちんと定めらていれば、「なぜ、これはダメなんですか」という声があがることもないからです。

―就業規則をきちんと作っていない会社もあるのですか?

そうですね……、とくに昔は「就業規則なんてどうでもいい」という姿勢の会社が多かったです。もちろん最近ではそういった会社は減っていますが、ゼロではありません。

また、何十年も前に作成したきりで今の実態とあっていない、形骸化された就業規則を使っている会社も多いと思います。

国をあげて「働き改革」が進められていることもあり、新しい制度や働き方を取り入れようとしている会社が増えているように感じます。ただ、それに合わせて就業規則も変えていかないと、会社の土台が置いてきぼりになっています。

たとえば最近では、週4日勤務などの制度を取り入れている会社もあります。そうすると出勤日数を変えるとともに、変形労働時間制に変える必要がでてくる場合もありますが、それをきちんと就業規則に反映できているのかは気になるところです。

テンプレートのままで就業規則を作るのは、失敗のもと

―就業規則を作る、見直す方が気を付けるポイントはありますか?

本書でも少し書かせていただいたのですが、ネットなどにあるテンプレートをそのまま使いまわすことはやめた方がいいと思います。私の本にも“そのまま使える”とは書かれているんですが(笑)、あくまでベースでとして使っていただきたいですね。一つひとつ、この内容がどういった意味をもっているのかという詳しい解説を規定例に合わせて、左右対称式で書かせていただいたので参考にしてほしいと思います。

よくありがちなのですが、テンプレートに「部長に届け出る」と書いてあったので、実際には部長がいないのにそのまま作成してしまう。また「○○申請書に記入の上」とあるのに、その用紙は用意していないなんていう失敗をよく聞きます。なので、テンプレートや本の内容をそのままをトレースすることは気をつけてください。

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『規程例とポイントが〈見開き対照式〉でわかる就業規則のつくり方・見直し方』好評発売中

―他に本書のポイントは?

気をつけたのは“書きぶり”です。昔に出版された就業規則に関する本とは、語尾の使い方を少し変えています。たとえば懲戒解雇の項目で、以前ですと無断欠勤について「しばしば無断欠勤する人」という書き方がされていたのですが、最近では“しばしば”の頻度が問題になるので、いれない方がベターです。

こうした、ちょっとした書きぶりでルールの取扱いが変わってしまうことがあるので、言葉の使い方には注意が必要ですね。そういう意味でも、就業規則を少しずつ時とともに見直すことが重要ですよね。

―就業規則をきちんと見直さなかったことで、大変なことに……といったエピソードをご存知ですか?

たとえば……

  • 会社側がきちんとした手順を踏まずに、退職金の規定こっそり変えていた。
  • 結婚した場合は土日通算で7日間休めると規定していたが、その申請期間をきちんと決めていなかったので、結婚して5年してから休暇を申請された。
  • 慶弔の見舞金の範囲を明記していなかったため、配偶者の叔父が亡くなったときに、適用されるかどうかでもめた。

など、こまごまとしたケースですが、ちょっとした矛盾が大きな問題に……ということがたくさんあります。

そういった色々な事例をベースに、読者の方の想像が及ばないところをカバーする。それが私の本の役目なのかなと考えています。

―読者の方にメッセージをお願いします。

何度もお伝えしていますが、実際の働き方に即さない箇所を見直すなど、定期的なメンテナンスを忘れず実行してください。大きな法改正の時期はもちろん、小さな社内ルール変更の際にもきちんと就業規則とリンクしているかを、その都度確認してください。

弊社44年間の実績のなかで、在籍社労士40名がみてきた多くの事例をもとにした『規程例とポイントが〈見開き対照式〉でわかる就業規則のつくり方・見直し方』が、みなさまの助けとなれば嬉しいです。


 
-プロフィール-

大槻 智之(おおつき ともゆき)IMG_9030
1972年4月東京生まれ。2010年3月明治大学大学院経営学研究科経営学専攻博士前期課程修了。経営学修士。1994年4月に現在の社会保険労務士法人大槻経営労務管理事務所(年間7000件超の案件を扱う国内最大級の社会保険労務士法人、所属社会保険労務士は約40人)に入所。銀座支社長、統括局長を経て、2016年7月に同法人の代表に就任。また、2013年12月に株式会社オオツキMを設立、代表取締役に就任。人事交流会・海外進出サポート・各種セミナー、人事スクール事業を提供するオオツキMクラブの運営をスタート。現在、参加社数は250社(社員総数26万人)を超えている。