次にこの4つのカテゴリーの中から、自社プロダクトに価値を見出してくれそうなセグメントどうしを組み合わせてひとつの「塊」にします。これを「ターゲティング」と呼びます。

ヘアサロンの場合でいえば、

デモ:30代、40代の兼業主婦で
ジオ:名古屋市に住んでいて
サイコ:子育てと仕事を両立させたいと思っている
ライフ: 時間を見つけてはママ友とランチに行き、週末は自宅でパン教室を開くような人たち

といった具合です。

事業規模が小さい場合でも、ひと塊だけのターゲティングではリスクをともなうので、第2優先ターゲット層を想定しておくとよいでしょう。このヘアサロンの場合、

デモ:50代、60代の兼業主婦で
ジオ:名古屋市に住んでいて
サイコ: 子育てを終えて時間にもお金にも余裕ができ、おしゃれをしたい
ライフ: 夫や友人とおしゃれなレストランへディナーに出かけるような人たち

という具合にターゲティングすればよいでしょう。

値引き合戦から抜け出した引越会社

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『課題解決につながる「実践マーケティング」入門』理央周・著

STPのフレームワークはもちろん、中小企業でも取り入れることができます。

愛知県の引越会社、引越一番の事例で考えましょう。

引越業界では、インターネットで相見積もりが簡単にとれるようになっているため、何もしないと激しい価格競争(値引き合戦)に巻き込まれてしまいます。

値引き合戦は、経営資源が豊富にある企業に有利なので、正面切って挑むことは得策とはいえません。売上が少なくなり利益が悪化しますし、「安かろう、悪かろう」と思われるとブランド価値も低下します。価格競争はできるかぎり避ける必要があります。

そのためには自社が提供できる顧客価値を明確にしておくことです。「顧客価値」とは、顧客が対価を喜んで支払いたくなる価値のことです。それによって競争の土俵を変えるのです。

中堅企業である引越一番が提供できる最大の顧客価値は、「愛知県・名古屋で一番親切で丁寧な引越」です。たとえば、新築のお宅に入るときには、それまで履いていた靴下を履き替えるだけでなく、違う色の靴下に1回の引越の間に何度も替えるなどの細かい努力と工夫をしているのです。

また、引越ごとに「不満足度」アンケートをとり、お客様が「不満足」に感じたことを、すぐに翌日の朝礼で社員全員に知らせて改善するので、90%以上の顧客満足度を常に維持できています。この細やかな気遣いと、丁寧な作業による「新居に引っ越したときの幸せ感」が、他社と比較した場合の、自社独自の顧客価値になります。

こうなると、競争の土俵が変わってきます。「価格が安いか」ではなく、「どれだけいい引越をしてくれるか」という判断基準で、お客様に比べられます。すると、値引き合戦に巻き込まれることなく、別の土俵で戦うことができます。

このように、引越一番のメインのターゲット層を整理すると次のようになります。

ジオ:愛知県・岐阜県・三重県の東海三県在住で
デモ:引越を考えていて
サイコ:少しくらい高くてもいいので丁寧に家具を運んでほしいという人たち

ということになります。

サイコの部分を、もう少しくわしく説明すると、引越会社を選ぶ際に、「値段の安さ」のみを基準に選ぶのではなく「大事な家具や新居を傷つけない丁寧さ」を基準に選ぶということです。つまり、「引越はどこで頼んでも同じだから安い会社がいい」という価値観を持つ層ではなく「大事な新居で幸せな生活をするための家具を、ちょっとくらい高くてもいいからきちんと運んでくれる会社がいい」という価値観を持つ層が主要ターゲット層になります。

引越をしたい方、新築に移る方、引越をしたい大家族というデモ(属性)だけで漠然と切り分けているだけだと、もともと大多数いるであろう、価格を比較し「安い引越会社」を選ぶ顧客層が多く来てしまいます。

自社だけが提供できる価値に響く顧客層を探し、他社がやっていないことで優位に立つ工夫をしていくことが重要です。自社の顧客は、一度定義したら終わりではありません。スピーディな市場の変化に対応して見直すため、「永遠の課題」だといえます。


2017年11月8日(水)、紀伊國屋書店新宿本店にて出版記念講演会開催決定!

講演タイトル

課題解決につながる「実践マーケティング」入門
~がんばっていても「なぜか売れない」と悩んでいるあなたへ~

■「誰に、何を、どう売るか」で整理すれば課題が見えてくる!

「自然に売れる仕組み」をつくるときのポイントは、「誰に(ターゲット設定)、何を(商品・サービス開発)、どう売るか(コミュニケーション戦略)」で整理すること。そうすれば、全体感を持って本当に解決すべき課題に取り組むことができます。

演者の理央周氏は、アマゾンやマスターカードなどでマーケティング・マネジャーを務めたコンサルタント。実践的でわかりやすい説明に定評があります。今回の講演では、理央氏がよく相談や質問を受ける課題をピックアップして、解説します。

日時|2017年11月8日(水) 18:45開場 19:00開演
会場|紀伊國屋書店新宿本店8階 イベントスペース
参加方法|参加には整理券(先着50名)が必要です。
※お問い合わせ・お申込み方法は紀伊國屋書店様のホームページをご覧ください。

著者・講演者プロフィール

理央周(りおう めぐる)
マーケティングアイズ株式会社代表取締役
本名、児玉洋典。1962年生まれ、静岡大学人文学部経済学科卒業。大手自動車部品メーカー、フィリップモリスなどを経て、米国インディアナ大学にてMBA取得。アマゾン、マスターカードなどで、マーケティング・マネジャーを歴任。2010年に起業し翌年法人化。収益を好転させる中堅企業向けコンサルティングと、従業員をお客様目線に変える社員研修、経営講座を提供。2013年から2017年まで、関西学院大学専門職大学院経営戦略研究科で准教授として教鞭をとる。著書に、『「なぜか売れる」の公式』『8割捨てる!情報術』(ともに日本経済新聞出版社)、『仕事の速い人が絶対やらない時間の使い方』(日本実業出版社)などがある。