皆と別れた帰り道、一人電車に揺られながら考えた。
(本当にこの会社で大丈夫なのか?)
当時は、超売り手市場だった。いくらでも転職先はあった。

とはいうものの、入社してすぐに辞めるのは、あまりにもバツが悪い。
右手には、まだオヤジとの握手の余韻が残っていた。
ボクはじっと自分の手を見つめ、
(見かけは怖いけど悪い人じゃなさそうだ。しばらくこの会社で頑張ってみるか)
改めてそう決意した。

これが、社会人としてのスタートだった。

配属後の叱られる日々

翌日から仕事が始まった。
先輩たちの話を聞くだけの、たった三日間の研修が終わり、すぐに配属が決まった。
渡された辞令は「社長室勤務を命ずる」だ。
社会人になりたてのボクは、それが何をする部署なのか、よくわからなかった。
説明を受けると企画、監査、経営分析などを担当するそうだ。また、社長室の仕事には、秘書業務も含まれていた。

ボクは、オヤジの顔を思い浮かべながら、
(あの人の秘書をするのか。きっと大変なんだろうな)
そう思った。

その予感は、的中した。
配属された初日から毎日一時間以上は、オヤジに叱られた。それもたしなめられるような叱られ方ではない。すさまじい勢いで罵倒されるのだ。
連日のように「アホ」「ボケ」「帰れ」と言われ、ときに書類を投げつけられた。
今の時代だったら完全にパワハラだろう。
何度も辞めようと思った。でも、辞めることはできなかった。それは、オヤジの叱り方が表面上は厳しかったが、中身はとても温かったからだ。

オヤジは、典型的な大阪の中小企業の経営者だ。
とんでもなく時代遅れだが、その教えは、深く考えさせられる内容が多かった。

オヤジは、新人だったボクにたくさんの仕事のルールを教えてくれた。
その教えを、ボクのノートとともに紹介しよう。

(第1話 終わり)


『苦労して成功した中小企業のオヤジが新人のボクに教えてくれた「上に立つ人」の仕事のルール』(嶋田有孝 著/日本実業出版社 刊)は全国の書店、ネット書店で発売中です。

著者プロフィール

嶋田有孝(しまだ ありたか)

昭和41年生まれ。大阪府出身。平成元年、同志社大学法学部卒業後、株式会社日経サービス入社。社長室長、総務部長、営業本部長等を歴任。現在、同社代表取締役社長。
著書に、『仕事のプロが新人のために書いた仕事の本』(明日香出版社)、『リーダーシップが身につく本』『20代で読んでおきたい成功の教科書』『ビシッと言っても部下がついてくる できる上司の叱り方』(以上、PHP研究所)などがある。