『アクセンチュア流 生産性を高める「働き方改革」』(江川昌史著、日本実業出版社)は、長時間労働が常態化していたアクセンチュア(総合コンサルティング企業)が取り組んだ「働き方改革」の軌跡を、改革を推進した経営トップが自ら解説した書籍です。

アクセンチュアが断行した改革は、残業時間の削減や女性採用比率の向上など労働環境の改善に加え、生産性の大幅な向上をもらたしました。

アクセンチュアはなぜ変わらなければならなかったのか。改革はどのようにして成し遂げられたのか。反発するマネジャーや社員たちをどう巻き込んだのか。本書によれば、経営トップの改革を成し遂げる強固なリーダーシップと、徹底したコミュニケーションがその原動力だったと言えそうです。内容の一部を紹介します。

「アクセンチュアさん、ものすごく評判悪いですよ」

2015年にアクセンチュア日本法人の社長に就任した江川昌史氏は、前年の12月、付き合いのある人材紹介会社の担当者から衝撃的な言葉を投げかけられました。

「アクセンチュアさん、採用関係では、ものすごく評判が悪いですよ。激務で長時間労働という噂が立っていて、人を紹介しづらい状況にあります」

世界的なコンサルティング企業であるアクセンチュアは人材がすべての会社です。人材紹介会社が人を紹介したくないという状況は既存の社員の長時間労働を常態化させ、ひいては会社の成長に影響を与えます。

その時すでに、労働環境に課題があることを認識していた江川氏ですが、外部からここまで言われるようになっていたのは想定していませんでした。抱いていた懸念が、差し迫った危機感に変わった瞬間でした。

当時のアクセンチュアは噂の通り、社員の多くが長時間残業し、終電で帰宅するのが当たり前でした。長時間労働はむしろ美徳であり、よい仕事、早い出世の条件だという思い込みが蔓延。体力勝負の“体育会系カルチャー”が根強い会社だったのです。

改革の前に行われた社員に対するヒアリングの結果が同書に掲載されています。一部紹介しましょう。

部門別調査で寄せられた「改革前」の社員の声

■ワークスタイルに関して
・遅くまで働いて“頑張り感”を出す人が多い
・夜中に送られてきたメールを即返信できることが尊ばれる
・オンライン会議や在宅勤務など、フレキシブルな働き方を許容しない雰囲気

■コミュニケーションに関して
・上司に「いちいち話しかけないで」という雰囲気がある
・誰が何の専門性をもっているのかお互いをよく知らない
・挨拶しない人が多い

■モラル・マインドに関して
・外資系コンサルタントは偉いと思っている節がある
・自分のスキル向上だけを考え、チームとしてパフォーマンスを出す意識がない

(同書14、15ページより抜粋)

想像以上に、社員の疲弊が職場の雰囲気をギスギスしていたものにしていました(自分の会社にもあてはまる、という読者も多いのではないでしょうか)。