また、安保理が出すのは決議だけではありません。議長(アルファベット順に1か月交代出回ってくる)が事態の改善を促すために出す「議長声明」や、公式記録には残らない報道向けの「報道声明」もありますが、この2つには法的拘束力は有りません。

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安保理の対応(同書p.154より引用)

安保理が決議を行なうには、15か国中9か国の賛成が必要となります。また、常任理事国のうち1国でも反対がでたら「拒否権行使」となり、たとえほかの14か国が賛成していても否決されます。この拒否権は非常に強力なもので、行使されると決議はおろか、議長声明・報道声明を出すこともできなくなります。

こうした事情もあり、安保理では円卓を囲んだ映像としてよく流れている公式協議の場よりも非公式協議、いわば根回しの方が重要です。とかく根回しというと「ビジネスを非効率にする日本特有の悪習」などのイメージが持たれがちですが、実は国際政治の場でも最後にモノをいうのはこうした「水面下で落としどころを探り、交渉・説得する」といった努力なのです。

国連総会について

安保理が15か国から構成される組織なのに対し、総会は全加盟国から構成されています。また、前述の通り法的拘束力を持った決議は行なわず、拘束力のない「勧告」にとどまります。ただ、「国際人権規約」のように総会が採択した条約を各国が批准した場合は、法的拘束力を有します。

安保理の議決と違い、総会では基本的に過半数(重要なテーマであれば3分の2以上)の賛成で可決されます。たとえば、「新たな加盟国の承認」は安保理決議で承認されたあと、総会の3分の2以上の賛成を得る必要があります。

また、国連事務総長の選出についても、2016年の第9代目選出以降はプロセスが若干変化した(後述)ものの、基本的に安保理が候補を1人に絞り込んで総会に推薦決議を提出し、総会がそれを承認する流れになっています。

※第9代目からは、非公式対話として各候補者が10分間で抱負を述べ、加盟国や世界中の市民社会の代表からよせられた質問に回答する、いわば「公開面談」のプロセスが新たに加わり、ウェブキャストによるライブ配信も行われました(参考)。安保理は、その様子をもとに選定し1人に絞り込んで総会に推薦決議を行なう、という流れになります。

その意味では「総会は、安保理の追認機関にすぎない」という見方もできますが、国際協力の推進に関する勧告など、安保理に関係なく行なわれるものもあります。

国連事務局と事務総長

「国連事務総長」というと、なんだかとてつもない権限をもった人のように聞こえますが、実態はどうなのでしょうか? 事務局の役割と合わせてみてみましょう。

事務局は国際司法裁判所を除いた各主要機関から委任される広範囲の職務を遂行する機関です。その長である事務総長の職務には、国家間の仲介・調停に乗り出したり各国首脳との会談や、国際平和を脅かす事項があれば安保理の注意を促すなどがあり、さながら国際社会におけるトップ外交官と言えます。

ですが、その権限は決して強大なものではありません。各国首脳と会談したところで、相手側の国家を従わせることができるわけではありません(内政干渉になるため)。また、加盟国の合意がない限り、独断で事を進めることもできません。

言葉の響きだけ聞くと「国連事務総長=世界の大統領」みたいな誤解をしがちですが、前述の通り国連の権限は安保理(とりわけ常任理事国)に集中しているため、事務総長の権限はさほど大きくないのが実情です。


本文中では触れませんでしたが、残りの主要機関の主な役割を駆け足で解説すると、以下のようになります。

  • 経済社会理事会:連携関係にあるILOやIMFなどの各専門機関の報告を基に、調整を図る
  • 国際司法裁判所:国家間の揉め事を国際法に基づいて解決する。個人や企業は訴えられないほか、(一部の国家を除き)当事国の双方が裁判で争う合意を形成しなければ、提訴できない

国連はこうした各種機関の活動を通して、加盟国の平和と安全を図っているのです。