仕事や人間関係がうまくいかないときや、「まわりの人に認められていないのではないか」と感じたときの孤独感やさみしさ。こうした感情は、実は誰もが持つ本能的なものです。それを胸の内にしまいこんだり認めなかったりするとき、人は、負の感情から抜け出せない悪循環に陥ることがあります。

「私を見て」「私の存在に気づいて」という欲求の本質を知ることが、さみしい心を落ち着かせるファースト・ステップです。「Look at me症候群」という概念を提唱した臨床脳研究の第一人者、柿木隆介医師は、著書のなかでそう述べています。

・つい「いい人」のふりをしてしまう
・親や友達に本音を話せない
・SNSの「いいね!」が少ないと不安になる

このような不安定な感情は、多かれ少なかれ、誰もが日常的に感じるものです。しかし人によっては、その性格や考え方、おかれた環境の影響によって、負の感情が心の内側でふくらんでいき、いいようのない孤独やさみしさを抱えてしまいます。また、そんな自分が嫌いになることもあります。

増幅された孤独感は、何かのきっかけで人を思わぬ行動に向かわせます。自己嫌悪から、人に会うのを避ける。あるいは、いきすぎた行動で周囲を驚かせる。

極端な場合には、何らかの精神的、社会的問題を起こし、発達障害や適応障害、あるいはうつ病などの精神疾患と診断されることもあります。

内科、神経内科の医師であり脳科学研究者でもある柿木隆介氏は、そのような心の問題を抱える多くの人たちと接してきました。

そのなかで柿木氏は、人間誰しもが持つ本能的な欲求でもあり、だからこそ自覚しにくい「やっかいな欲求」に注目しました。

それが「私を見て」「私の存在に気づいて」(Look at me)という欲求です。柿木氏は、この欲求をコントロールできずにあらわれる言動を、「Look at me症候群(Look at me syndrome 以下LAMSと省略)」と名付けました。

そして、このLAMSをテーマに書き下ろしたのが『読むだけでさみしい心が落ち着く本 Look at me症候群の処方せん』です。

「私に気づいて」という感情は本能的なもの

柿木氏がLAMSの人と接するたびに、次のような心の叫びを感じとるといいます。

「毎日普通に生きて、笑うことも普通にあるけれど、静かなさみしさを抱え、心が無表情になってしまった」

社会の規範から外れた行動をとってしまったとはいえ、本人と直に接するといたって普通の人であり、けっして精神疾患や発達障害などではないことが多いそうです。

彼女(彼)らは「私を見て」「私の存在に気づいて」という強い欲求を上手に表現できず、むしろそんな自分を否定し隠してしまうために、さみしさが限界をむかえ、それが異常な言動として表れている、と柿木氏は述べています。