「東洋思想」と聞くと、難しさを感じるかもしれません。でも、実は私たちの生活に広く定着していて、いざ勉強をしてみると「この価値観はもともとこの人の考えたことだったのか」「この言葉はこの人が生み出したのか」と驚くことも多いのです。

そこで問われていることは、私たちの生き方です。「善く生きたい」とは誰もが思うことですが、さまざまなものがそれを邪魔してきます。そんなときにどう考えればいいのか? どう行動すべきなのか?

古代中国で成立した東洋思想はその指針になるのです。

ここでは、『知っていると役立つ「東洋思想」の授業』(熊谷充晃:著)から、そのエッセンスを学んでいきましょう。

リーダーを魅了する「東洋思想」

歴史的偉人や成功を収めた経営者、スポーツ指導者たちの中には、孔子の「論語」や、老子の「道教」、孫子の「兵法」といった、古代中国で成立した東洋思想からの影響を公言する人が少なくありません。

例えば、“日本資本主義の父”と言われた明治時代の実業家・渋沢栄一は、『論語と算段』という本を著し、「論語」を経済活動のベースとなる道徳観念として引用しています。また、孫子の「兵法」は、戦国時代の甲斐の大名・武田信玄や、第二次世界大戦後に中国で文化大革命を主導した毛沢東など、リーダーたちのバイブルとして君臨してきました。

実は、この東洋思想は、私たちのような一般の人が読んでもたくさんの学びがあります。それは、人生を歩む上で必要な考え方を教えてくれるものであり、行くべき方向を示してくれるものでもあるのです。

しかし、いきなり原典に挑んでも、それを完全に理解することはできないかもしれません。ここでは、その理解をサポートしてくれる一冊『知っていると役立つ「東洋思想」の授業』(熊谷充晃:著)から、古代中学の思想家たちが一体私たちに何を教えてくれるのか、見ていくことにしましょう。

「論語」は私たちの普段の行動の基盤を成すものである

頑張っていてもなかなか認めてもらえない…。そんなときは誰にでもあるものであり、「自分を認めてくれない周囲が悪い」と考えてしまいがちです。

こんなとき、孔子はどう考えたのでしょうか?

「論語」において孔子は、自分本位のモノの見方を否定し、「相手はどのように考えているのか」「相手の意図は何なのか」を洞察すべきだと述べています。これは、20篇からなる「論語」の一篇である「学而第一」のラストを飾る

「不患人之不己知、患不知人也。」(人の己を知らざるを患えず、人を知らざるを患えよ。)

この言葉に示されているもので、認めてもらえない何かを抱えている自分を自覚し、その理由を追求しようとする姿勢の重要性が説かれています。

このことからも分かるように、「論語」は、行動や思考の理想的なあり方を語っている書物です。「仁」の思想ともいい、とても普遍的で道徳的な思想をもたらしてくれます。

だからでしょう、日本にも「仁」の思想は脈々と受け継がれています。例えば、聖徳太子が立案したと伝えられる「十七条憲法」の第一条「和を以て貴しと為す」という条文は、その影響を強く受けていることを示します。

また、江戸時代には全国的に儒教の教えが広まりました。儒教とは孔子の教えを体系化したもので、「親孝行に励もう」「他者を思いやろう」といった考え方はこの儒教によってもたらされています。

つまり、「論語」は現代に生きている私たちの考え方や行動の基盤をなすものであり、「善く生きる」ためにマニュアルともいえるのです。こう考えると、かなり身近なものに感じてきませんか?