毎日、仕事を頑張るビジネスパーソンにとって、その成果を大きく左右するのが上司という存在。

12年間経営コンサルティングに従事し、8000人以上のビジネスパーソンの生の声を聞いてきた安達裕也さんは「上司から、ビジネスの上でも人としても学ぶことは多い」と言います。

連載(全6回予定)「仏の上司・鬼の上司 彼らが教えてくれたこと」では、安達さんからお聞きした、上司から学んだ「働く」ということについてのヒントを紹介します。
(文責:日本実業出版社)

現在は、働く人を応援するメディア『Books&Apps』を運営しながら、さまざまな企業のコンサルティング活動を行う安達さん。キャリアのスタートは、大手コンサルティング会社である、Deloitteへの入社でした。そこではどんな上司と出会い、何を学んだのでしょうか――。

上司に新規事業を任されるも失敗する

上司から学んだことを教えてくださる、安達裕哉さん

私は大学院を卒業後、デロイト・トウシュ・トーマツのメンバーファームだった、デロイト トーマツ コンサルティング(DTC)に採用されました。

学生時代にプログラミングをやっていたので、当時はおそらく会計システムのコンサルタントとして採用されたのだと思います。

その後、偶然にもマネジメントコンサルティング部門のシニアマネジャーであり、上司として長くつき合うことになるAさんに声をかけていただき、マネジメントコンサルティング部門に異動しました。

そのとき、Aさんは「安達さんは、社長を目指しなさい。そのためにはマネジメント・コンサルティングの経験を積む必要がある」と言われ、その後の人生が大きく変わりました。

その後、数年は上司の指示通り、マネジメント・コンサルティングをガリガリやりました。ときには同時に十数社のお客さんを担当したこともあります。

ところがその後、Aさんがまた新しいミッションを私に出します。

それは「コンサルティング会社の新規事業の立ち上げ」でした。

当然、右も左も分からないまま、とにかく行動します。

具体的には机の販売から、本の出版、研修のコンサルティングなど、数々の新事業にチャレンジしましたが、当然のように、ことごとく失敗し、コンサルティングと起業とは全く違うのだと痛感しました。

私がそれまで行なっていたコンサルティング業務は、企業の既存の事業の改善に重点を置くものでしたので、事業の立ち上げに際し、ゼロからマーケティングについて考え、検討する経験が不足していたことが失敗の原因でした。

自らの経験不足からの失敗を味わった私は落ち込みましたが、Aさんからマネジメント・コンサルティングの一部門のマネージャーを命じられました。

マネジャーは部下のコンサルタントのために仕事を取ってこなくてはなりません。そのため、市場調査や差別化、検証など、マーケティングを学び直しました。この時の経験は、「どうやって無形のものを売るのか」についての貴重な知見を与えてくれました。

最初の1年は目標数値の達成もかなわず周りにも迷惑をかけたのですが、次の年以降は無事に目標をクリアすることができ、当時は仕事がとても充実していたことを憶えています。

ただ、上司のAさんはもっと先を見ていました。マネジメント・コンサルティングの需要だけでは市場が小さすぎる、と、Aさんは企業に対する人材育成コンサルティングをメイン事業に据えた社内ベンチャーを立ち上げたのです。

当然私も参画し、その後東京支社長、大阪支社長を歴任することになりました。

結果として、支社長を務めることになったのですから、知らず知らずの内にAさんが私に言っていた通りになっていますね(笑)。その後も、上司のAさんは私の会社員人生に大きく関わることになります。